週刊誌の記載によれば、西高の2015年度の早稲田大学合格者数は192人となっています。これは、驚嘆すべき数字です。しかし、西高校がホームページで公表している早稲田大学の合格者数は184人となっています。
つまり、西高は、早稲田大学の合格実績を、大幅に「下方修正」したことになります。
通常なるべく高く見積もられるはずの早稲田大学の合格実績が「下方修正」されたことも驚きですが、その数値が「-8」と、かなり大きな変動を示していることにもびっくりさせられます。
しかし、184人という合格者数であっても、それは、今年の早大合格者の「高校別ランキング」でトップ3に入る驚異的な実績です。
ちなみに、「インターエデュ」などのインターネットサイトでは、186人という数字も見られます。
ここまでの話であれば、週刊誌と高校が公表する合格者数は違っているかもしれないので、気をつけよう(何に?)、という話で終わりなのですが、さらに続きがあります。
『週刊朝日』の2015年5月8・15日号で、私立大学の「実合格者数」が確認できます。
のべ人数ではなく、1人で複数の学部・学科に合格しても、合格者を1名としてカウントした「実合格者数」を掲載しているのです。
それによれば、西高の早稲田大学の「実合格者数」は108人です。
ですから、184人の「のべ合格者数」のうち76人は、合格者が重複しているのです。
「のべ合格者数」にしめる「実合格者数」の割合は、58.7パーセントです。
また、当初の週刊誌の記載されていた192人をもとに計算すれば、56.3パーセントとなります。
この数字をどうとらえるべきなのでしょう。
早稲田大学の合格者数が多い高校のうち、「実合格者数」の把握できない開成高校や神奈川の湘南高校などを除き、主な高校の「のべ合格者数」とそのうち「実合格者数」が占める割合を出してみます。(調査の手間もあるので、週刊誌ベースの「のべ合格者数」を記載します。)
都立西 | 192 | 56.3% |
渋谷教育学園幕張 | 189 | 85.2% |
女子学学院 | 181 | 61.3% |
豊島岡 | 181 | 71.8% |
東京学芸大附属 | 165 | 75.2% |
本郷 | 156 | 60.3% |
開智 | 155 | 64.5% |
県立千葉 | 153 | 71.2% |
浅野 | 148 | 75.7% |
市川 | 142 | 69.0% |
県立横浜翠嵐 | 136 | 75.0% |
桜蔭 | 129 | 70.5% |
全体として、いくつかの私立高校で「実合格者割合」が低くなることが見てとれるのですが、都立高校である西高の「実合格者割合」は、やはり、異質です。
また、いくつかの高校で「のべ合格者数」が抑えられているのは、別のカウント様式で合格者数を数えているからなのかも知れません。
ある可能性について考えてみました。これは、ただの推察です。
日比谷高校や戸山高校は、早稲田大学の合格者のうち、現役生の占める割合が高くなっています。今年は、日比谷は63.2パーセント、戸山は59.8パーセントです。(国高は54.5パーセントで、ちょっと気になる数字です。)
現役生の方が、浪人生よりもたくさん合格しているということです。
それは、ある意味自然なことであるといえます。現役生の人数のほうが、浪人生の数よりも多くなるはずですから。
ところが、西高の場合、早稲田大学の合格者のうち、現役生が占める割合が49.5パーセントとなっており、浪人生の「活躍」がみてとれます。
さらに気になるのは、西高が公表している昨年の合格者数のデータです。
144人の合格者のうち、現役生は54人となっており、合格者全体に占める現役生の割合は37.5パーセントと、今年以上に極端に低くなっています。これは西高の「伝統」なのでしょうか。
以下のような考えを導くことができます。
西高を卒業した浪人生は、早稲田大学入試おいて、多くの合格をつかんでいます。
そして、「のべ合格者」と「実合格者」の差が非常に大きいということは、一人で複数の合格を果たしているケースが多いということがうかがえます。
以上のことから、西高を卒業した1人ないし複数の浪人生が、早稲田大学の合格を「稼いでいる」のではないかという「推論」が成り立ちます。
これはただの推察です。
もちろん、数値に間違いがあれば、この「推論」は破綻します。
192人から、184人への「下方修正」が気になります。
昨年の段階で、西高の先生は、「何か」に気づき、さすがに見逃せないと、考えたということもありえるのかな、と思います。(もちろん、ただの集計ミスを修正しただけの可能性もありますが。)
もし、仮に「推論」通りであったとしても、当然、そうした受験のありかたは、西高校の先生方の指導によるものではないはずです。このことには、強く注意を喚起したいと思います。
私は、塾・予備校の人間が、どのようにして受験生に声をかけるのか、想像がつきます。
例えば、東京大学を志望している受験生が、センターテストで、まずい状況になってしまったとき。
まだ、受験は終わってないぞ。来年あらためて、挑戦しよう。今年は、来年に向けて「合格力」をつけるために、ランクを下げて国公立大学を受けておこう。
君は優秀だから、特待生として当予備校に通うことができるようにしてあげよう。合格した大学に進学するより、浪人して苦労したほうがいい。
~10ヶ月後~
君のために熱心に指導してきた当予備校から、君にお願いがあります。早稲田大学の「センター試験利用入試」を受けてくれませんか。もちろん、受験料はこちらが出します。君は、名前を貸してくれるだけでいいのです。
(このストーリーは、私の豊かな想像力の産物です。テンションが上がって、久しぶりに妄想が爆発してしまいました。)
実は、当初は、週刊誌の情報を用いて、私立高校の合格実績について分析してみようと思っていました。
しかし、ちょっと問題がありそうだな、と思ったので、都立高校をサンプルにしていろいろ考えてみることにしました。
受験産業は、本当に「ハリボテ」の山です。
そんな虚無の中でうごめいている身としては、週刊誌の情報はとてもありがたいです。
でも、自分も、世の中も、塾の人間も、受験生も・・・「数字」に踊らされているのではないか、と思うことがあります。
「数字」という情報は「客観的」ですから、とにかく信頼したくなります。
ですが、「数字」には、人に「心」を失わせる効力があると思っています。
「数字」の裏側や「外側」を見なければ、ものごとの本当の姿は見えないと思います。
高校や大学の価値を「数字」で決めるのは、ちょっと「単純すぎる」かもしれません。
「数字を見つつ、数字を見ない」というのが、理想なのかな、と個人的には思っています。
(ivy 松村)