本年度の都立高校の「志望予定調査」の結果を見ると、「中学併設校」の「志望者離れ」が目立ちます。
「中学併設校」というのは、いわゆる都立中高一貫校の中で、高校の募集を行う学校のことです。
都立中高一貫校の多くは、人気の高かった都立進学校が母体となりました。
ですから、当初は高校の募集でも一定の志願者を集めていたのですが、近年では敬遠される傾向が顕著になってきたようです。
この学校群は「グループ作成校」を形成する一群ですが、その入試形態が「ブランド化」に結びつかず、受験生にとっては「負担感」が大きくなっているのかもしれません。
(きっと、作問側の負担感も大きいと思います。)
中学併設校の志願予定調査のデータを見てみましょう。
28年度 | 27年度 | |||||||||||
増減 | 志望者 | 募集 | 倍率 | 志望者 | 募集 | 倍率 | ||||||
大泉 | 男 | 7 | 53 | 39 | 1.36 | 46 | 39 | 1.18 | ||||
女 | -9 | 30 | 39 | 0.77 | 39 | 39 | 1.00 | |||||
両国 | 男 | -19 | 34 | 39 | 0.87 | 53 | 39 | 1.36 | ||||
女 | -4 | 34 | 39 | 0.87 | 38 | 39 | 0.97 | |||||
富士 | 男 | -13 | 51 | 39 | 1.31 | 64 | 39 | 1.64 | ||||
女 | -16 | 30 | 39 | 0.77 | 46 | 39 | 1.18 | |||||
白鷗 | 男 | -31 | 25 | 39 | 0.64 | 56 | 39 | 1.44 | ||||
女 | -14 | 27 | 39 | 0.69 | 41 | 39 | 1.05 | |||||
武蔵 | 男 | 9 | 37 | 39 | 0.95 | 28 | 39 | 0.72 | ||||
女 | 9 | 28 | 39 | 0.72 | 19 | 39 | 0.49 |
大泉の男子と武蔵以外の高校は、昨年度に比べて志望者を減らしています。
また、大泉の男子と富士の男子以外は、志願予定者が募集を下回り、倍率が1を割っています。
武蔵は、昨年度よりも志望者を増やしていますが、志望予定者数は「定員」にとどいていません。
最終的に「定員割れ」が起こることはないのだろうとは思いますが、明らかに、都立高校受験において、中学併設校の人気は下落しています。
「志望予定調査」は、受験生の「ダイレクト」な志望動向を反映すると考えられます。
「倍率が低くなっているから、あっちを受験しよう」というような、「当年の状況」にもとづいた判断が、最大限排除されるからです。
ある意味で、受験生の進学の「本意」を、もっとも強く反映したデータであるといえるのかもしれません。受験生に、現状で「一番」だと考えられている高校の倍率が高くなるわけです。
ここから、受験生個人、あるいは受験全体の状況が変化していきます。
それにしたがって、志望校の再考、変更が活発になり、志望状況も推移していくわけですが、当然、その変更は「リアクション」として行われるわけです。
都立の中学併設高校も、やはり、この低倍率を見て志望者が「流入」してくるはずですから、受験時には倍率が上昇することになるでしょう。
しかし、それにしても、複雑な思いに駆られます。
これらの高校は、端的に、「本命」の志願者が減少しています。
つまり、低倍率に引き寄せられてくるような「流動的な受験生」に頼る募集となってしまうわけです。
都立中受検の人気は根強くありますが、対照的に、中学併設高校の募集は低迷しつつあります。
3年前、つまり、今の中3生が小6生のときの都立中受検がどれくらいの「激戦」であったのか、比較してみましょう。
平成25年の都立中受検の倍率と、今年の志望予定調査の倍率です。
大泉 | 男 8.42(505人)→1.36(53人) | |||
女 10.60(636人)→0.77(30人) | ||||
両国 | 男 7.72(463人)→0.87(34人) | |||
女 8.58(515人)→0.87(34人) | ||||
富士 | 男 5.93(356人)→1.31(51人) | |||
女 6.97(418人)→0.77(30人) | ||||
白鷗 | 男 8.63(518人)→0.64(25人) | ※白鷗中学は男女合わせた募集 | ||
女 8.63(724人)→0.69(27人) | ||||
武蔵 | 男 6.32(379人)→0.95(37人) | |||
女 5.95(357人)→0.72(28人) |
3年前に、多くの都立中受検生が涙を飲みました。
そして、3年経って、「回帰」しようという受験生がほとんどいないということにあらためて気づかされます。
ある受験生は力を蓄え、さらに上を目指していることでしょう。
また、ある受験生は限界に直面したのかもしれません。
低迷の原因は様々なものが考えられますが、もっとも大きな理由となっているのは、「一貫校」に高校から入学するというデメリットが、受験生に強く意識されているということだろうと思います。
もしかすると、都立中高一貫校の中で、高校募集を「残す」ことにした高校の、その動機となったのは「高校の伝統」を守りたいという思いだったのかもしれません。
その思いは、胸に突き刺さるほどによくわかります。
一貫校となるように「指示」された都立高校が、当時いかに混乱したか、いろいろな情報で伝え聞きました。
しかし、現状では、総合的に考えて、高校募集の「枠」は、中学受検生のために使った方がいいのではないかという気がします。
もちろん、高校受験生にとっては、高校募集の「枠」は、進学のためのひとつの「可能性」です。
しっかりと情報を読み取ることができれば、有効に活用することができると思います。
(ivy 松村)