本年度の社会の問題は、「本質的な対策」を行った受験生は点数が取りやすい問題構成でした。
奇をてらったような問題がほとんどなく、「正統的」な問題が並べられていました。
本年度の都立高校の作問は、非常にに難しい部分があったと思いますが、さまざまな制約の中で、かなり作りこまれた問題を出されていると感じ入りました。
受験勉強として「きちんとした対策」を行ってきた受験生ほど点数が取りやすかったと思います。
本年度の都立高校の社会の入試問題を解説します。
○大問1「融合問題」
〔問1〕
「時差」の出題は平成18年度、平成16年度に出題されています。
平成18年度の大問1〔問の1〕の問題は、本年度の問題とほとんど同じです。
同一の地図が使われていて、日本とイギリスの時差を求めるものです。
この問題を解いたことのある受験生は、取りこぼすことはなかったと思います。
中学の「社会科」のなかで、「時差」は2度、学習機会があります。
中1の「世界地理」を学習するときと、中2の「日本地理」を学習するときです。
(ほとんどの中学の1年生の1学期、そして、2年生の1学期で、「時差」の問題が出されます。)
そこで、「時差」に関する基本的な知識を身につけていれば、平成18年度の問題に触れたことがあるかどうかにかかわらず、この問題は、容易に解けるはずです。
・イギリスのロンドンを通る本初子午線が経度0度であること
・日本の標準時子午線は東経135度であること
以上の「知識」は必ず知っておくべきものです。
さらに、以下のことも知っておくか、少なくともすぐに求められるように「理解」しておかなければなりません。
・経度15度ごとに1時間の時差が生じること(360度÷24時間)
・イギリスと日本の時差は9時間であること(135÷15)
本年度の「時差」の問題は「基本中の基本」といってもよい問題です。
一方、平成16年度の問題は非常に高度な解答作業が必要となる問題でした。本当に「厳しい問題」というのは、平成16年度の大問6の〔問3〕のような問題のことをいうのでしょう。
〔問2〕
「幕末」における事件などの「場所」を特定する問題は、近年の「定番」となっています。
「御三家」、「桜田門外の変」というヒントとともに、「徳川光圀=水戸黄門」という「一般常識」から、水戸=茨城県を特定することができます。
〔問3〕
都立の社会の「語句筆記」問題は、明らかな「傾向」があります。
それに気づいている受験生は、その周辺の「用語」をおさえておくはずです。
「三審制」という答えは、「ど真ん中」でした。
○大問2「世界地理」
〔問1〕
条件にあてはまる国の位置を特定する問題です。
A=アメリカ
B=オーストラリア
C=中国
D=ナイジェリア
「表Ⅰ」を確認します。
「ア」が、人口が多いため消費量が大きくなる中国であるとわかります。 また、「米」の生産が多いということからも、「ア」が「アジアの国」であると特定できます。
次いで穀物の生産量が大きい「ウ」が、世世界で最も穀物の生産量が大きな国であるアメリカであるとわかります。
アメリカは、世界最大の穀物輸出国です。
そして、残りのうち、小麦の生産力が高いオーストラリアが「エ」であるとわかれば、もう一方の「イ」がナイジェリアであると特定できます。
次に、「グラフⅡ」をみると、6~8月に気温が下がっているのが確認できますので、簡単に「南半球」の国の雨温図であることがわかります。
ナイジェリアは、「北半球」に位置しますが、それを知らなくても、雨温図の年平均気温が13.3度となっているので、「D」の選択肢を消去できます。
情報を正しく読み取っていけば、正解の「エ」にたどり着くことができます。
〔問2〕
地図中のWにあてはまる国を選ぶ問題です。
W=アルゼンチン(南アメリカ州)
X=タイ(アジア州)
Y=エジプト(アフリカ州)
Z=イギリス(ヨーロッパ州)
「パンパ」という広大な草原を有するアルゼンチンで牧畜が盛んであることを知っていれば、牛や羊の数が多い「イ」が正解であると、すぐに特定できます。
また、国民総所得に着目すれば、4か国のなかで唯一の「先進国」であるイギリスが「イ」であることがわかります。
さらに、距離的、地域的に日本とつながりの強いタイに、日系現地法人の数が多くなることに気づけば、「エ」がタイであることがわかります。
そして、国民総所得がもっとも低く、もっとも日本と「疎遠」である「ア」の国がエジプトになります。
〔問3〕
この問題は、スペイン、イタリア、ギリシャで生産が盛んな農作物を選ぶ問題です。
わが国においては、その農産物の93.5パーセントが香川県で生産されています。
「ア」のコーヒーは、南アメリカやアフリカで生産が盛んです。
「イ」のバナナは、東南アジアや南アメリカで生産されます。特にバナナは、フィリピンが上位に来るはずです。
そもそも、コーヒーやバナナを育てるのに、香川県の気候が適しているはずがありません。
「エ」のぶどうは、「ワイン」という連想から迷ってしまう選択肢ですが、日本のぶどうの生産量の1位は、当然山梨県です。
山梨県が日本で最も多くぶどうを生産しているという知識は、「基本中の基本」です。
正解は「ウ」のオリーブですが、南ヨーロッパの料理に、よくオリーブオイルが使われることを知っている受験生は、なんとか答えることができたと思います。
この問題は、どちらかというと「思考力」によって正答にたどり着く問題だと思いますが、「香川=オリーブ」という「知識」を持っていた受験生は、容易に解答することができたはずです。
実は、香川県でオリーブの生産が盛んであるという知識は、「特別」なものではないのです。
なぜなら、平成26年度の大問3の〔問1〕の選択肢「ウ」で取り上げられているものだからです。
過去問に「丹念に」取り組んだ受験生であれば、地中海地方で多く生産されているオリーブが、香川県で栽培されているのだということを知っているわけです。
過去問を解くのは、「そのような知識」を身に付けていくためです。
○大問3「日本地理」
〔問1〕
AとBの略地図の情報から、正答は「イ」の福岡県か、「エ」の広島県にしぼられます。
「文章」に書かれている「第二次世界大戦前から鉄鋼業」=「八幡製鉄所」というヒントを拾うことができれば、「イ」の福岡県を選ぶことができます。
〔問2〕
「Ⅱ」の文章で述べられている県を特定する問題です。
①=青森県
②=静岡県
③=鳥取県
④=宮崎県
青森県は、年平均気温が低く、「りんご」の生産が盛んなので「エ」であるとわかります。
静岡県は、「茶」の生産が盛んなので「ア」であるとわかります。
宮崎県は、畜産が盛んであることと、促成栽培を行って「きゅうり」を生産していることから、「エ」であるとわかります。
残りの「イ」が鳥取県ですが、「過疎地域」である鳥取は農業産出額が低いこと、そして「日本なし」を生産していることがヒントになっています。
それぞれの県の特定は、比較的容易です。
「Ⅱ」の文章に、「北から南」に複数の河川が流れているという記述がみられます。
青森県は、本州最北端に位置し、北側に海岸線があるので、川が流れるとすれば、「南から北」になります。
ですから、文章の条件にあてはまりません。
同じく、鳥取県も北側に海岸線がありますので、条件にあてはまりません。
宮崎県は、東側に海岸線があるので、やはりこの条件にあてはまりません。
したがって、答えは、唯一南側に海岸線を有する「ア」の静岡県となります。
複数の河川とは、富士川、大井川、天竜川などを指しています。
また、「温暖で水はけのよい土地での栽培に適した作物や果実」の栽培が盛んであるという記述がみられます。
これは、「茶」と「みかん」のことを述べています。「社会科」の知識として、特に、「みかん」は「温暖な気候」が栽培の条件であることは知っておかなければなりません。
「みかん」の生産が確認できるのは「ア」の選択肢だけですので、このヒントから正答にたどり着くこともできます。
最後に、「米、野菜、果実、畜産に分類されない農産物の農業産出額は、約600億円である」という記述がみられますが、このヒントを用いて「答えを出す」のは「最後の手段」です。
実際、計算して「ア」が約607億円になることを算出できれば正解にたどり着くことができますが、何というか、それは「エレガント」ではない答えの求め方です。
受験において、その「執念」は大事なものだと思います。
また、作問側も、「数値をあつかう能力」を評価しているからこそ、そのような「作り」の問題となっているわけですが、やはり、そこは「本流」ではないわけです。
〔問3〕
それぞれの選択肢に書かれている内容をよく読めば、「エ」であることがわかります。
これは、落とせない問題です。
(ivy 松村)
大問2の問1についてアがアメリカだとおっしゃっていますが、米の生産量が一番多いことから中国がアではないでしょうか。
確かに、「ア」は中国ですね。
ご指摘、ありがとうございます。
訂正させていただきます。