「日比谷つぶし」と都立高校入試⑤

「特別選考」を廃止するということは、見方を変えていうならば、「内申点」を都立高校入試の「絶対の条件」にするということになります。

 

 

当然ながら、「内申点」の「しばり」を強めるほど、これに見切りをつける受験生が出てきます。受験生は、私立高校へ流れることになるのです。

 

「東京都立高校入学者選抜検討委員会報告書」にも、以下のような「危惧」が述べられています。

 

 

※「都立高等学校への進学を希望する中学生に対して、『都立高等学校は、意欲をもって全教科を偏りなく学習する生徒を求める。』というメッセージになる。一方、特定の教科で選抜を行う私立高等学校を受検しようと考える中学生が増えると考える。」(p27「有識者」の意見)

 

 

 

「東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」を読んでみると、どうやら、最初から「特別選考」を廃止する「結論ありき」で、議論が「準備」されていたのではないか、という疑いが生じてきます。

 

 

 

この「報告書」は、平成26年の1月23日に発表されています。

 

実は、その3年前にも「平成24年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」が作成されています。

その「平成24年度版」は、平成23年7月に発表されました。これは、石原氏が都知事をされていた期間に取りまとめられたものです。

 

 

その内容の違いに驚きます。

「論調」が180度違っているのです。確認してみましょう。

 

 

まず、「平成24年度版」の17ページには、「特別選考」に関する調査結果が示されています。

その結果は、特別選考を実施した高校の83.4%が「特別選考」に対して肯定的な意見だった、というものです。

 

「特別選考」を実施した高校からは、以下のような意見が寄せられています。

 

※「本校の特色を中学生に対して示すことができた。」(p17)

※「中学校において思うように調査書点が伸びなかった受検者に、チャンスを与えることにつながる。」(p17)

 

 

また、委員会の審議でも、委員から以下のような「意見」が述べられています。

 

 

※「調査書点と学力検査等の得点による総合成績という尺度だけではなく、特別選考という異なる尺度で選抜を行うことができ、受検者の様々な能力をみることができた。」(p17「高校」の意見)

 

※「高等学校が求める生徒像を明確にして特別選考を実施することで、受検者の多様な面をみることができ、成果は大きい。」(p17「高校」の意見)

 

※「専門学科においては、中学校で真面目に取り組み、高等学校入学後に伸びる可能性のある生徒を入学させることができるような、受検者の意欲や特性等が重視される選抜を特に検討してほしい。」(p17「中学」の意見)

 

 

そして、「平成24年度以降の基本的な考え方」として、「特別選考は、一定の効果があることから、次年度についても引き続き実施する」(p18)と明言されているのです。

 

 

また、「24年度版」では、中学の評定について、「中学校間や同一中学校の教科間で評定の分布状況に大きな差があるなど生徒や保護者等に対して説明が難しい状況が一部にあるということも事実である」(p23)と述べられています。

 

つまり、「内申点」に不公平性が存在し、それを補う「装置」として、「特別選考」というものが機能していると、言外で認めているわけです。

 

 

たった2年で、「特別選考」に対する「評価」がまったく「正反対」になっていることがわかります。

石原氏が都知事を辞められた直後に、劇的な「転調」があったわけです。

 

 

 

「審議経過」をみてみると、「24年度版」の「委員会」は、全部で4回の会合が開かれていたことがわかります。

 

 

・平成24年度東京都立高校入学者選抜委員会審議経過

 

第1回(平成23年5月16日)

題2回(平成23年5月27日)

第3回(平成23年6月 6日)

第4回(平成23年6月21日)

 

 

一方、26年度は11回です。

 

 

・平成26年度東京都立高校入学者選抜委員会審議経過

 

第1回 5月13日(月)

題2回 5月21日(火)

第3回 6月10日(月)

第4回 6月24日(月)

第5回 7月 5日(金)

第6回 8月26日(月)

第7回 9月11日(水)

第8回 10月 4日(金)

第9回 10月31日(木)

第10回 11月21日(木)

第11回 12月25日(水)

 

 

強引に議論を誘導しようとする人間がいて、審議が停滞し、進捗しなくなっていたことがよくわかります。

 

26年度の「報告書」をよく読んでみると、特に中学と高校の教員が、おかしなことをいっています。

 

 

それでも、中学の教員の立場は理解できます。中学の教員が、中学校の評定を重視するような制度にしてもらいたいという希望を持つのは自然なことです。

 

 

高校の教員が高校入試を台無しにしようとする言動を行う理由を読み解くヒントは、委員の「属性」にあります。

 

24年度の審議には、町田高校や竹早高校といった進学校の教員が参加していました。

 

一方、26年度は以下の高校の教員が出席しています。

 

工芸高校(58)

墨田川高校(56)

本所高校(50)

砂川高校(44)

第四商業高校(44)

 

( )内は、晶文社の「高校受験案内2013」で確認した「当時」の男子の偏差値です。

 

墨田川は、上掲の高校の中で、唯一、特別選考を実施していた「単位制」高校です。

砂川は「定時制・単位制」、工芸は「専門家」、第四商業も「専門科」の高校です。

 

 

参考までに、「特別選考」とともに「自校作成」を実施していた高校の偏差値を掲載します。

 

日比谷高校(71)

西高校(71)

国立高校(71)

戸山高校(70)

立川高校(70)

青山高校(68)

国分寺高校(68)

武蔵高校(67)

新宿高校(66)

両国高校(66)

大泉高校(65)

富士高校(62)

白鷗高校(60)

 

 

 

26年度の東京都立高校入学者選抜検討委員会に召集された高校の教員の「属性」が、著しく偏っているのがよくわかります。

 

上位難関校の意見が反映されないような体制のもとに、審議を進めているわけです。

 

うがった見方をすれば、上位難関校から反発が起こるような「計略」を行っていたわけです。加担してくれない人間はなるべく呼びたくなかったのかもしれません。

 

 

これは一般論ですが、こうした「審議の場」に出席する人は、個人の意見を述べることももちろんありますが、「誰か」の意見を代弁する場合もあるわけです。あるときには、自分が属する「集団」や「団体」の要望を述べることもあるでしょう。ないしは、「仕切り役」の意向に沿って発言したり、「スポンサー」などの利益を確保するために「ごり押し」を行ったり「ポジショントーク」を繰り広げたりすることもあるのでしょう。

 

 

 

ところで、あまり注目されていないことですが、「特別選考」の廃止は、「公立中学」出身ではない受験者に、多大な不利をもたらします。

 

日比谷には、毎年、国立や私立の中学からの受験者が一定数います。やはり学芸大附属中の受験生がもっとも多いはずですが、それ以外にもさまざまな理由で「学校を替える」生徒がいます。

あるネット上のデータによれば、日比谷の合格者の約1割が国立や私立の出身のようです。最近では、都立中からの受験者も出てきているかもしれません。

 

こうした「中受組」にとっては、都立高校入試における「内申点」は、非常に大きな「ハンデ」となります。

 

「一貫校」の先生は、生徒が高校受験をして「途中で抜ける」のを非常に嫌がります。

まことしやかな噂では、高校受験をすると学校に伝えると、中3の2学期の成績が露骨に下降してしまうのだそうです。

その真相は確かめるべくもありませんが、そうでなくても、優秀な生徒が集まる名門の一貫校では、相対的に、成績を維持するのが難しいという現実があります。

 

こうした学校の生徒にとって、「特別選考」はまさしく「生命線」だったわけです。

 

「特別選考」がなければ、都立トップ校合格に見合う学力を有していても、「内申点」の差で合格が厳しくなるのではないかという不安が大きくなります。

 

特に国私立中男子の受験回避が、今年の日比谷の応募人数が減少した理由の一端となっている可能性があります。

 

 

(ivy 松村)

 

 

One thought on “「日比谷つぶし」と都立高校入試⑤

  1. こんにちは.
    わたしは最近都立新宿高校を卒業したものですがこれを読んでなんとも無念な気持ちになりました.
    たしかに高校時代は内申点のおかげで合格できた頭のよくない人たちが多くいたものです.
    東工大に進学したわたしは少しは都立高校の実績に貢献できたのでしょうか...

    内申点などという不平等極まりない制度は一刻も早く廃止されるべきです.

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