私立学校と東京都教育委員会

前回までのブログでは、東京都教育委員会事務局(教育庁)と東京都教育委員会の委員の間で、ある種の「対立」があったことを確認しました。

 

私立高校に対する「配慮」を行おうとする事務局職員と、都立高校の存在価値を高めていきたい教育委員の間に、確執に近い「意見の相違」があったことが、「定例会議録」で確認できます。

 

 

しかし、実は、この「構図」は、いとも簡単に反転し得るものです。

 

平成14年の東京都教育委員会の会議では、逆の「構図」が見受けられます。

すなわち、事務局が「都立の側」に立ち、一部の教育委員は「私立」の側に立っていることがうかがえます。

 

当時、東京都教育委員会は都立中の開校準備を進めていました。

私立学校は、危機感を募らせていたわけです。

それで、東京都教育委員の委員に個別に接触することで何とか「打開策」を探ろうとしていたのかもしれません。

 

象徴的な発言をみてみましょう。

 

 

 

平成14年 第16回 東京都教育委員会定例会会議録

 

 

【委員】(※「東京私立中学高等学校協会からの質問」についての発言) 実は私、9月の中旬だったのですが、私立の協会の方と会う機会があったのです。それで私の方は、実はそれほど重い話ではなく、私学の方が会いたいと言っているので顔合わせというレベルのことだと思ったのですが、二人ではなかったかと思いますがお目にかかりましたら、ここに書かれてあるとおりのことをご自分の言葉で向かい合っておっしゃったわけです。私はもちろんその場ではとても回答できることではございませんので、全部伺うだけ伺って、次の教育委員会のときに、おっしゃったことは私の方から皆さんに申し上げますと言ったのですが、ここに書いてあるままなのです。それで、もっと言いますと、一つには、まずパイロット校として、中高一貫教育2校を設置するということであったにもかかわらず、あっと言う間に多くなってしまい、それを発表したということはどういうことかということでした。また、私学に対しては一切、ほとんどのことが相談されずに、報告もなく、勝手に突っ走っているではないかというお怒りがかなりありました。もちろん私はまだこれを読んでいない状態のときであったのですが、私立はどうなってもいいと思っているのかということと、このまま行ったらば私学の半分はつぶれますということを、繰り返しお二人の方がおっしゃっておられました。それで、今、委員がおっしゃったみたいに、私学の立場というのは当然あるわけで、それを考えたときに、従来はもっとお互いがうまくコミュニケーションを取り合って報告もあり、相談もやっていたではないかと思うのですが、なぜ、こんなに勝手に突っ走ってしまうんだということが一つありました。それと、今、ご質問にあったとおり、教育委員との直接的な懇談の場を持ちたいとおっしゃっておりました。すべてはここに書いてあるとおりです。(p13-14)

 

 

【委員】 経営の問題がベースにあるということと、それから公立は今さら中高一貫教育をやらなくてもいいというのが、かなり立腹というか、相当、感情としても逆なでされた状態で話をされました。ですから、教育委員会でオーソライズされたことしか私としても答えることができなかったのですが、確かにそこの部分の思いが、なぜもっと手を携えてともにやらないのかという感じがいたしました。ただ、このまま行くと溝が妙に深くなってしまうのではないかと、私は両方とも一理あると思うわけですが、そこのところはやや懸念いたしました。(p15)

 

 

【委員】 先ほど申し上げた、このままでは私立は半分つぶれますと繰り返しおっしゃっていたことの裏というのが、どうも教育委員会も教育長も信じられないという気持ちが、これは私の思ったことなのですが、私学のベースにあるような気がしています。今は10校ですが、このままでいったら気がついたらもっと増えて、各区に一つずつできてしまうのではないかということです。それもふたを開けたら、今度はどこそこの区に20校できますとか、何校できますとなってしまうのではないか、そうなったら私学は半分つぶれてしまいますということで、どうも信じられないという空気があったと思います。(p16)

 

 

【委員】 先ほど個別的に私学の人と教育委員があってという話が出ましたので、恐らく教育委員全員が個別に、昼間会ったり、夜会ったりしているのだと思うのですね。教育委員として、それが仕事ですから。私学側もそれぞれの立場の私学があって、それぞれあるわけですね。定例会ですので、これはどの人がどんな発言をして、これはこうだなんていうことは言うべきでないので、それはそれとして、教育委員は私学の人たちと個別に会ってここの場に臨んでいて、できるだけ仲よくしようとしているという事実がここにあるわけです。ですから、教育委員が表でもって会うという方がいいなら、そうしてもらってもいいし、しかし、個別に会って情報を集めて、いろいろな事情も聞いているから、恐らく公私の仲が悪くなることはないものと私自身は思っているのです。そういう心配はない。ただ、誤解が今のところありますが、個別にそれぞれの委員が会っているわけですから、そんなにおかしくなることはないはずだと私は思っています。(p17)

 

 

 

 

発言者は、かなりの「覚悟」で私立学校を擁護しています。

 

この一連の発言を行ったのが誰なのかはわかりません。

会議録に、発言した教育委員の氏名が記載されるようになるのは平成20年からなのです。

 

最後の発言は「別の委員」のものだと思われますが、フォローしようとして「傷口」を深くしているような気もします。

多分、一連の発言がなされているときに、会議は「凍りついていた」のではないかと想像します。

 

 

 

一連の発言の中で、「教育長」が非難の対象になっています。

 

当時、教育委員の中から「教育長」が選ばれる制度になっていましたが、「教育長」は、歴代、都職員出身者が務められていました。

(現在の教育委員会の制度では、「委員長」が廃止され、首長が直接任命する「教育長」が、名実ともに教育委員の代表者となる立場です。)

 

 

平成14年時の「教育長」は、横山洋吉氏です。当時都知事だった石原慎太郎氏の信任が厚く、のちに副知事を務められました。

横山氏は、都立高校の「進学校化」に筋道をつけた人物として知られています。

 

「教育長」自らが「陣頭指揮」を取って、都立中学や都立高校の「ブランド化」を推し進めていたわけです。

 

つまり、教育庁は、率先して都の教育制度の改革に「大なた」を振るい、私立学校を「圧迫」していたわけです。

 

私立学校の関係者が、憤り、狼狽し、混乱している様子が伝わってきます。

 

 

 

気になったので、歴代の教育委員を調べてみました。

 

平成14年の教育委員のメンバーの中に、過去に「日本私学振興財団理事長」を務められた方がいらっしゃいます。そういう方が教育委員会の委員になることもあるのですね。(上掲の発言をしたのは、別の委員だと思いますが。)

 

 

 

 

教育長 委員長 委員 委員 委員 委員 委員
28 中井敬三  - 木村猛 山口香 遠藤勝裕 宮崎緑 大杉覚
27 中井敬三  - 木村猛 山口香 遠藤勝裕 竹花豊 乙武洋匡
26 比留間英人 木村孟 山口香 遠藤勝裕 竹花豊 乙武洋匡
25 比留間英人 木村孟 山口香 内館牧子 竹花豊 乙武洋匡
24 比留間英人 木村孟 瀬古利彦 内館牧子 竹花豊 川淵三郎
23 大原正行 木村孟 瀬古利彦 内館牧子 竹花豊 川淵三郎
22 大原正行 木村孟 瀬古利彦 内館牧子 竹花豊 髙坂節三
21 大原正行 木村孟 瀬古利彦 内館牧子 竹花豊 髙坂節三
20 大原正行 木村孟 瀬古利彦 内館牧子 竹花豊 高坂節三
19 中村正彦 木村孟 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 髙坂節三
18 中村正彦 木村孟 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 高坂節三
17 中村正彦 木村孟 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 高坂節三
16 横山洋吉 清水司 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 國分正明
15 横山洋吉 清水司 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 國分正明
14 横山洋吉 清水司 米長邦雄 内館牧子 鳥海巖 國分正明
13 横山洋吉 清水司 米長邦雄 鍛冶千鶴子 鳥海巖 國分正明
12 中島元彦 清水司 古橋廣之進 鍛冶千鶴子 緒方四十郎 國分正明
11 中島元彦 清水司 古橋廣之進 鍛冶千鶴子 緒方四十郎 國分正明

 

 

 

 

教育委員を務められた方の経歴なども調べてみました。ついでに、石原氏の人事考課や人脈なども調べてみました。

 

これは個人的な感想ですが、石原氏は傑出した「人事の才」を持つ政治家だったのだと思います。他の政治家が粗略なのではなく、石原氏が卓越していたのです。

 

 

石原氏は、東京都教育委員会の委員に、事務局の統制と監視の役割を求めていたようです。

そして、石原氏は、その期待に応えられるだけの意志と力量をもった人物を委員に任命しています。

 

(件の発言は、ちょっと「イレギュラー」だったのだと思います。その人物にとって抜き差しならない「義理」が作用しているのかもしれません。)

 

 

おそらく、政治家には2通りのタイプがいます。

官僚を制御しようとするタイプと、官僚と協調するタイプです。

 

石原氏は、典型的な前者のタイプで、しかも、その器量は抜群でした。

 

次に都知事になる方はどんなタイプの政治家なのでしょうか。

 

 

 

さて、もう少し、私立学校について考えてみたいと思います。

 

東京都教育委員会の会議録を読んでみると、以下のような、私立学校に関する発言が目につきました。

 

 

 

平成15年 第16回 東京都教育委員会定例会会議録

 

 

【学務部長】・・・私学側の、これは公私協の中でもいろいろ議論するんですが、やはり二極化というような状況、生徒が集まる学校は集まる。しかし、集まらない学校は、なかなか生徒が集まらない、そういう二極化が進行しているということで、特にその二極化の方の集まらない学校については、かなり危機意識が高まっていると、そういう状況でございます。(p9)

 

 

【学務部長】 当然のことながら、私ども都立に対する期待が非常に高まっている状況の中で、今後の枠組みを協議する場合も、そういうような希望が大きい状況の中で枠を小さくすることはできないというような議論になると思いますし、私学側の方では、二極化の中で、生徒が集まらない学校に対しても、都教委としても十分に協力をしてほしいと、そういうような主張がこれから徐々に出てきて、議論になろうかと思います。(p11)

 

 

【委員】二極化のことについては 以前に私が私学の関係者とお会いしたときに割と具体的におっしゃっていまして、そのときは進学校と、いわゆる名門校、伝統校と言われている、親たちが並んで願書をもらっても行かせたいというような学校は全く問題はないけれども、そうではない学校が、都立がこの後のしてくると、半分はつぶれるだろうということを、その関係者はおっしゃっていたわけです。

・・・それで、都立高校がすばらしくなるのはとてもいいんだけれども、私立との連携をもっと密にやってほしいという要望があって、私、具体的に伺ったんですけれども、具体的には言えないというか、わかりにくいことなわけです。

・・・ここにきて、都立がよくなって、それと同時に、私立の半分がつぶれるようではこれは問題であるということを言っていました。2時間ぐらいとくとくと話されましたけど。(p11)

 

 

 

平成20年 第16回 東京都教育委員会定例会会議録

 

 

【髙坂委員】

先日、私学の校長・理事長の研修会に呼ばれて行きました。これは東京都教育委員会の委員として行ったわけではなく、経済同友会の教育委員会のメンバーとして行きましたが、印象では、私学はかなり危機感を持っています。今、竹花委員がおっしゃったように、私学はある程度の授業料を取らなければいけない。公立がしっかりすればするほど、それに対する危機感もあるわけです。しかし、ある意味では競争ですから、お互いが切磋琢磨して教育の内容を高めればいいことです。(p7-8)

 

 

 

 

「私立学校の窮状」が伝わってきます。

その根本的な原因は、「少子化」です。

 

上掲の東京都教育委員会の会議での発言にもあるように、私立学校の「二極化」が進行しています。

「苦しい立場」に立たされている学校と、「強度」を維持している学校があるわけです。

 

 

私立学校には、公立の学校にはない「独自性」が求められます。

その特徴や校風などが世の中に認められている学校は、「教育ニーズ」に応えることができ、「人気」を保つことができるでしょう。

 

他方、特に、公立高校と、生徒の募集が競合する私立高校は、「少子化」の影響を強く受けています。子供の絶対数が減り、「パイ」が縮小すれば、生徒の「応募」が低調になります。

 

そのような私立高校は、「経営が大変になる」わけです。

 

 

 

やはり、情緒的にはさまざまな思いを持ちます。私も、「現実」が想像できないほど、鈍感な人間ではありません。

また、いろんな学校が存在し、多様な進路を選べる環境は、子供たちとってよいものだという思いもあります。

 

 

しかし、「少子化」という未曽有の危機に、私たちの社会は立ち向かっていかなければなりません。

 

 

「少子化」の大きな原因のひとつは、「教育費」の増加です。

私たちは、教育にお金がかからない社会を目指さなければならないと考えます。

 

 

現実には、これまで、いくつもの公立学校が統廃合されてきましたが、私立学校はできるかぎり「保護」されています。これから先も、都立高校を優先的に減らしていくべきなのでしょうか。

 

 

(大風呂敷を広げるようで恐縮ですが、私は、「公教育」を学校やスポーツクラブ、学習塾や習い事教室などと統合して、新しく再編することはできないかと考えます。必ずしも部活や校外活動などを「学校単位」で行う必要はないと思うのです。また、均質な「皆教育」と「習熟度別教育」が併存できるような重構造のシステムを作ったらどうか、と考えます。つまり、子供たちが、「義務教育」である小中学校と「選択的な教育機関」の両方で学習することを前提とするような制度です。それは、「現実」の延長上に可能であると考えます。そのような制度の中で、私立学校の役割は非常に大きなものになります。)

 

 

 

それにしても、私は、ずいぶん労力を割いて、都立高校にまつわる懸念や問題点をこのブログに記してきました。

 

私の視点は、一貫しています。

 

「入試選抜は公正でなければならない」という思いが、その動機の根底にあります。

 

すべては、その主題につながっています。

 

 

(ivy 松村)

 

 

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