英語の語順の話④

日本語は、語順操作が可能な言語ですが、常に恣意的に「語」が配置されるわけではありません。「基本語順」があります。

 

 

日本語の「基本語順」:

 

 

・「主語」→「時間」→「場所」→「目的語」→「動詞(述語)」

 

 

「動詞」は文末に配置されます。「動詞」が、この位置から移動するときには、文法を逸脱した「倒置」が起こっていることになります。

ときに、文章や詩句にリズムを作り出したり、ある語を強調したりするためにあえて動詞を移動させるような技法的な配置が行われますが、原則として「動詞」は文末に「固定」されています。

 

 

 

ある言語の文法について分析する際に、多くの言語学者は、「動詞」を中心に考察します。

それは、「文構造」の「核」となるのが「動詞」であると考えられているためです。

 

日本語やドイツ語の「動詞」の位置が原則的に「固定」されているのも、それを示唆していると考えられます。

 

 

 

さて、日本語は、「動詞」が文末に置かれるので、必然的に動詞の後ろに「語」を置くことはできないということになります。

 

「動詞」に隣り合うことができる位置は「動詞の前」だけです。

つまり、「動詞」に隣接して配置される「語」は、ひとつだけしかありません。

 

おのずと、その位置には「動詞」と最も「つながり」の強い「語」を置きたくなるはずです。

 

それは「目的語」です。

 

 

 

以下の文を見てみましょう。

 

 

「彼は毎日部屋で本を読む。」

 

 

この文の「動詞」は「読む」です。

その直前に、「目的語」である「本を」が置かれています。

 

 

「読む」と他の「要素」の「つながり」を並べてみると:

 

 

・「彼は・読む」…主語-動詞(主語-述語)

・「毎日・読む」…時間(連用修飾)

・「部屋で・読む」…場所(連用修飾)

・「本を・読む」…目的語-動詞(連用修飾)

 

 

 

「本を・読む」という「目的語-動詞」の関係が、もっとも緊密な意味の「つながり」を持っていることがわかるでしょうか。

 

小中学校の「文法の勉強」では、「彼は・読む」にあたる「主語-述語」関係を重視します。

しかし、「文構造」を分析する際には、「読む」という「動詞」が最も強く「要求」している「要素」を考える必要があります。「だれが読むのか」ということよりも、「何を読むのか」という「まとまり」の方が、「意味」を構成するうえで重要になります。

 

「読む」という動詞は「目的語」がなければ「完全な意味」を生成しません。

「彼は読む」というフレーズと、「本を読む」というフレーズを比べてみると、前者は「不足」が生じ、不安定な文になっていることがわかります。

 

意外に思えるかもしれませんが、「目的語-動詞」は、「主語-動詞」よりも強い関係なのです。

 

 

 

英語と日本語の「語順」について考察するときにも、「動詞-目的語」関係から考えなければなりません。

 

 

「He reads books in his room every day.」

 

 

「目的語」は「動詞」の後ろに置かれます。やはり、文の中心となる「動詞」と最も「つながり」が緊密な「目的語」を動詞の近くに配置します。

 

 

 

英語は「主語・動詞・目的語」(+「場所・時間」等)の「語順」で文を構成します。

 

 

・「主語」…英語で「subject」。通称「S」。

・「動詞」…英語で「verb」。通称「V」。

・「目的語」…英語で「object」。通称「O」。

 

 

言語学的には一般に、英語のような「語順」の言語を「SVO言語」といいます。日本語のような「語順」の言語は「SOV言語」といいます。

 

 

「SVO言語」は使用人口が多く、広く分布しています。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語などは「SVO言語」です。また、中国語も「SVO言語」です。

 

一方、 地球上に存在する言語のうち、もっとも数が多いのは「SOV言語」です。日本語のほか、朝鮮語、チベット語、モンゴル語、トルコ語などが「SOV言語」です。

(実は、英語を始め、ヨーロッパの主要言語はもともと「SOV言語」でした。この話は、またいつか。)

 

 

 

前回の記事で確認したとおり、英語は「孤立語」であり日本語は「膠着語」です。

それだけでなく、英語は「SVO言語」、日本語は「SOV言語」であるという違いがあることがわかりました。

よく知られていることではありますが、「基本語順」が違うわけです。

 

 

 

ここで、日本語の「名詞修飾」について考えてみましょう。

 

国文法では、これを「連体修飾」といいますが、わかりやすく「名詞修飾」ということにします。

 

 

「本」という名詞を修飾する要素は、その前方に置かれます。

 

 

・「面白い

 

 

「修飾要素」は、前方に配置されます。

 

 

魯迅の

読むべき

魯迅によって書かれた

魯迅が書いた

 

 

日本語は「前置修飾」の言語ですが、それは「SOV言語」にとっては「自然な選択」です。

 

 

以下の文を見てみましょう。

 

 

「彼は毎日部屋で魯迅が書いた本を読む。」

 

 

「動詞」と、「目的語」を隣接させるためには、「前置修飾」でなければならないのです。

 

 

 

今度は、英語の「名詞修飾」を確認してみましょう。

 

英語は、形容詞が「名詞修飾」を行うときは「前置修飾」です。

 

 

たとえば:

 

・「many books

 

 

これでは、文を作ったときに、「動詞」と「目的語」が乖離してしまいます。

 

 

「He reads many books in his room every day.」

 

 

 

しかし、英語には、もう一つの「名詞修飾」のパターンがあります。「後置修飾」です。

 

 

the book of Lǔ Xùn (魯迅の本) 〔前置詞による修飾〕

the book to read  (読むべき本) 〔不定詞による修飾〕

the book written by Lǔ Xùn (魯迅によって書かれた本) 〔分詞による修飾〕

the book that Lǔ Xùn wrote (魯迅が書いた本) 〔関係代名詞による修飾〕

 

 

そうすると:

 

 

「He reads the book written by Lǔ Xùn in his room every day.」

 

(彼は、毎日部屋で魯迅によって書かれた本を読む。)

 

 

「動詞」と「目的語」は隣接しています。

 

「SVO言語」である英語にとって、「後置修飾」は最も自然な配置です。

 

実は、英語という言語にとっては、形容詞の配置は「イレギュラー」なのです。

 

 

 

同じ「SVO言語」であるフランス語やスペイン語は、名詞を修飾する形容詞を名詞の後ろに置きます。

 

 

フランス語の例を見てみましょう。

 

 

「Il lit le livre intéressant.」

 

(彼は面白い本を読む。)

 

 

「le livre」(その本)の後ろに形容詞の「intéressant」(面白い)が置かれているのがわかります。

 

したがって、「目的語」を修飾しても、「動詞」の「lit」と「目的語」の「le livre」は、緊密に隣り合ったままです。

この配置は、フランス語の「文構造」から考えて、妥当です。

最も強固な関係である「動詞-目的語」を隣り合わせる形で文を構成するほうが、「文構造」が安定するからです。

「SVO言語」であるフランス語は、合理的な「後置修飾」を「選択」しているわけです。

 

(ドイツ語は、英語と同じように名詞の前に形容詞を置きますが、語順操作が可能な言語なので、英語の「語順の問題」とは同列に語れません。また、ドイツ語には、形容詞にも「格変化」があること、過去の文や複文では動詞の配置が変化することなど、「語順」について分析する際に、考慮すべき点がいくつかあります。)

 

 

 

英語の学習者がつまずきやすいのが、「後置修飾」です。

慣れるまではかなり混乱したという人も多いと思います。

 

英語学習者は、最初に、形容詞の「前置修飾」から習うことになるので、これが刷り込まれてしまって、「後置修飾」の理解に手間取ってしまいます。

 

しかし、ここまで見てきたとおり、英語にとって「自然」なのは「後置修飾」です。

「後置修飾」が本来の「語順」で、形容詞の修飾の方が「例外」なのです。

 

英語は、「後置修飾」を基準にして考えると、わかりやすくなると思います。

 

 

 

(ところで、実は、「SVO言語」であるにもかかわらず、「前置修飾」の言語があります。それは、中国語です。「漢文」を見ればわかりますね。中国語の「語順」はちょっと「やっかい」です。中国語の「語順」については、機会があれば。)

 

 

 (ivy 松村)

 

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