平成29年度都立高校入試の社会④

平成29年度都立高校入試の社会の解説の最終回です。

 

 

○大問5 公民

 

 

〔問1〕

 

自由権のうち、「経済活動の自由」について書かれた憲法の条文を選ぶ問題です。

 

正解は、「イ」になりますが、この問題、ちょっと気になります。

実は、過去に「全く同一の内容」が出題されています。

「憲法の条文」なので、答えの選択肢の内容も一字一句そのまま同じです。

平成25年度の大問5〔問1〕です。

 

故意なのか、それとも別の理由があるのか。

どうなんでしょうね。

 

 

 

〔問2〕

 

「株式会社」という「テーマ」はこれまでにないものでしたが、「○×の組み合わせ」を答える問題は、平成23年の大問5〔問2〕、22年の大問5〔4〕でも出されています。

 

「知識系」ですが、2つの項目について正誤判断を行うだけなので、それほど「難しい」問題というわけではありません。

しかし、これまでにない「テーマ」で、「単純すぎる構成」の作りがちょっと気になります。

 

 

 

〔問3〕

 

2000年代以降の「現代」がとり上げられています。

受験生の「記憶」にあるような「身近な時代」が出題されるのは、ちょっと珍しいと思います。

 

しかし、本問の「テーマ」は「グラフの読み取り」なので、「知識」に頼らなくても、しっかりとグラフを見て、選択肢の記述と照らし合わせて検討することで、正答を導くことができます。

 

 

「ア」…景気は緩やかに回復した

「イ」…景気回復を目指し…景気は2年間回復したが、その後すぐに後退した

「ウ」…景気が急速に回復

「エ」…大幅に景気が後退…景気回復は短い期間にとどまった

 

 

景気が回復に向かう時期を示している「ア」と「ウ」が、BとDのいずれかに当てはまります。

したがって、Cに当てはまらない「ア」と「ウ」を解答の候補から除外します。

 

 

一応、それぞれの記号の対応を確認しましょう。

 

Bの時期に、後退する局面もありましたが、わが国の経済成長率は「-1パーセント」から「1パーセント」に回復しています。

Dの時期には、わが国の経済成長率は「-2パーセント」から「2パーセント」に回復しています。

 

「全体」で、Bの時期に経済成長率は「2パーセント」回復し、Dの時期には「4パーセント」回復したことになります。

つまり、それぞれの選択肢を整合させると、「ア」がB、「ウ」がCに当てはまるということになります。

 

「ウ」で述べられている「新たな経済政策」というのは、いわゆる「アベノミクス」です。また、消費税が8パーセントに引き上げられたのは、2014年です。

最近のことなので、ほとんどの受験生はDの時期が「ウ」であると判断することができたでしょう。

 

 

さて、Aの時期を見てみると、景気が後退→2年間景気が回復→2年間景気が後退、となっています。

この時期の「全体」では、経済成長率は「2パーセント」から「-1パーセント」に後退しています。

 

A~Dの中で、「2年間景気が回復した後に、後退する」という経過を示しているのはAとBだけですが、Bは、先に述べたように、「景気が回復に向かう時期」になるので、「イ」の内容に合致するのはAの時期ということになります。

 

 

正解は「エ」になります。

 

 

Cは、グラフに示された18年間で、もっとも景気が後退した時期です。

2009年に、経済成長率は「-6パーセント」にまで落ち込みます。

翌年、景気は回復し、「2パーセント」となりますが、次の年には再度景気が後退し、経済成長率は「-2パーセント」となります。

これは、「エ」の選択肢にある「大幅に景気が後退」、「景気回復は短い期間にとどまった」という記述と一致します。

 

 

Cは、2007年から2011年の期間なので、今年の受験生の「小学校時代」と重なります。

この時期の「世相」が記憶にあれば、かなり有利でした。

「アメリカ合衆国の証券会社の破綻」というのは、2008年に起こった、いわゆる「リーマンショック」です。翌年に、日本だけでなく世界中の景気が後退することになりました。

 

 

 

〔問4〕

 

これは、何というか、「都立らしくない」問題でした。

〔問2〕もそうですが、本問も、「不親切」というか「大雑把」な作りになっていて、ちょっと気になりました。

(もしかすると、当初は「記述問題」として作られた設問だったのかもしれません。)

 

 

 

「テーマ」は、「消費者問題」です。これは、わりとよく出題される「テーマ」です。

過去には、平成25年度の大問5〔問3〕、平成18年度の大問1〔3〕、平成12年度の大問5の〔問2〕などでも出題されました。

 

 

Ⅰの文章に書かれてある法律は「製造物責任法(PL法)」です。

「製造物責任法」については、平成19年度の大問5〔問2〕(2)の「ア」、平成13年度の大問5〔問3〕の「ウ」でもとり上げられています。

 

 

「製造物責任法」が制定されたのは1994年です。

 

Ⅲのグラフを見ると、1993年ごろから、「危害や危険がある可能性のある製品の情報件数」が増加していることがわかります。

 

「消費者の権利」への関心が高まってきた時期に「製造物責任法」は、制定されました。

そして、また、この法律が制定されたことによって、さらに「消費者の権利」への関心いっそう高まっていったことを、グラフは示しているというわけです。

 

 

正解は「ウ」になるわけですが、Ⅰで述べられている法律を、2004年に改正された「消費者基本法」のことだと勘違いし、「エ」を選んでしまった受験生も多くいたのではないかと思います。

 

この設問は、「製造物責任法」というワードを、あえて出さない「作り」になっているわけですが、それが意図的なものなのか、それとも「作問上の成行き」なのか、ちょっと気になります。

 

 

 

それにしても、今年の大問5は、ちょっと「奇異な印象」を受けます。作問をした人がどんな意図を持っていたのか、気になりますね。

 

 

 

○大問6 融合問題

 

 

〔問1〕

 

A メキシコ

B ベトナム

C バングラデシュ

D エジプト

 

 

「ア」のヒント

・フランス領インドシナ→東南アジア

・1976年に社会主義国として統一

・米の輸出国→アジア諸国

・ドイモイ政策

→B ベトナム

 

「イ」のヒント

・オスマン帝国による支配

・運河→スエズ運河

・人為的な国境線→緯線・経線に沿った直線の国境線

・石油、天然ガス→中東・北アフリカ

→D エジプト

 

「ウ」のヒント

・ムガル帝国による支配→南アジア

・パキスタンから独立

→C バングラデシュ

 

「エ」のヒント

・アステカの遺跡

・1968年の夏季オリンピック

・隣国の巨大な消費市場→アメリカ合衆国

→A メキシコ

 

 

 

「ア」の「フランス領インドシナ」というワードは、近現代史に登場します。

第二次世界大戦が勃発し、ドイツはフランスを占領します。それに乗じて、フランスの植民地だった「フランス領インドシナ」に日本軍が侵攻します。

当時、そう呼ばれていた地域が、東南アジアであると特定できれば、「ア」とBを整合させることができます。

 

ちなみに、「インドシナ」は、「インド」と「シナ」を合わせた造語です。「シナ」とは「China」のことで、フランス語で「シナ」と発音します。

「東シナ海」という海がありますが、もちろん、「中国の東の海」という意味です。

 

 

 

19世紀から20世紀にかけての東南アジアの「状況」をおさえておきましょう。

 

・ベトナム、カンボジア、ラオス…フランスの植民地

・マレーシア、ミャンマー、シンガポール…イギリスの植民地

・インドネシア…オランダの植民地

・フィリピン…スペインの植民地→アメリカの植民地

・タイ…フランスとイギリスの「緩衝地帯」として独立を維持

 

 

 

「イ」の選択肢は、ヒントとなるワードが多くあるので、比較的容易にDと特定することができます。

 

エジプトのスエズ運河に関する問題は、ちょっと前の入試では、よく出題されていました。

平成11年の大問6〔問3〕、平成10年の大問6〔問1〕、平成7年大問2の〔問4〕、平成6年大問2の〔問4〕などです。

 

 

 

「ウ」は、やはり「ムガル帝国」から、南アジアを選ばなければなりません。

ちょっとびっくりさせられますが、インドをはさんで東西に位置するパキスタンとバングラデシュは、かつては同じ国だったのです。

(まあ、でも、アメリカ合衆国も「メインランド」とアラスカ州がカナダにはさまれているので、似たようなものでしょうか。)

 

インド、パキスタン、バングラデシュは、ともにイギリスの植民地でした。

第二次世界大戦後、この地域が独立することになるのですが、インドは、ヒンドゥー教徒が多くを占める国で、パキスタンとバングラデシュはイスラム教徒が多い地域でした。

そのため、インドとは別に「その東西の地域」がパキスタンとして独立したのです。

そして、その後、「東側」がバングラデシュとしてパキスタンから分離独立したわけです。

 

バングラデシュは、なじみの薄い国なので、受験生はちょっと迷ったかもしれませんが、他の国の位置と記述内容を整合させていくと、最終的には、「ウ」とCを一致させることができます。

 

ちなみに、バングラデシュは、本問とは別のテーマでしたが、平成16年の大問2〔問1〕および〔問2〕でとり上げられました。

 

 

 

「エ」は、「アステカの遺跡」というワードから、Aのメキシコであると特定できます。

 

余談ですが、サッカーの日本代表が、国際大会で初めて「入賞」を果たしたのがメキシコオリンピックでした。この大会で、日本代表は銅メダルを獲得しています。

近年、日本のサッカーは大きく発展し、アジア大会やアジアカップでは何度も優勝するまでに躍進しました。しかし、「世界大会」で3位になったのは、このときだけです。

(女子は、ワールドカップで優勝し、オリンピックで銀メダルを獲得しています。)

 

メキシコオリンピックは、1964年の東京オリンピックの「次に」開かれた大会でした。

日本サッカー協会は、当初、東京オリンピックに向けて計画的に代表チームの強化を図ったのですが、「結果」が出たのは、その4年後だったわけです。

 

サッカーに限らず、何事も、実力を養うには一朝一夕にはいかないものですね。

 

まあ、というわけで、この問題も、サッカーファンに有利な問題だったのかもしれません。

 

 

また、アジア・アフリカ諸国の中で、オリンピックを開催したことがあるのは日本、韓国、中国だけであるということを知っていれば、必然的に「ウ」の選択肢はAのメキシコとなることがわかります。

 

 

 

ちなみに、私はメキシコにも行ったことがあるんですね。

下の写真は、メキシコのビリャエルモサという町の、野外博物館で撮ったものです。

そこは古代文明のいろいろな石像がたくさんあって、楽しかったですね。

 

 

Villahermosa

 

私がかぶっているメキシコの独特のぼうしをソンブレロというのですが、これが気に入って、キューバに行くまでずっとかぶってましたね。

 

そうそう、メキシコに行って、そこからキューバに入国したのです。

キューバの飛行機の「ドライアイス」の写真が見つかったので、ついでに載せておきますね。

 

 

Cubana_air

 

…機内が「ドライアイス」の煙だらけですね。でも、ちょっとお祭りみたいで楽しかったですよ。

 

 

 

〔問3〕

 

Ⅱの文章には、「この時期の前半…中東依存度は下降傾向を示した」とあるので、「ウ」と「エ」の選択肢が消去されます。

「エ」の時期に中東依存度の下降が見られますが、これは、この時期の「後半」に起こっているので、「エ」は当てはまりません。

 

さらに、この時期の前半に「原油の総輸入量も減少した」とあります。

 

これによって、正解は「イ」であると特定できます。

 

また、この時期の後半に「原油の総輸入量は再び増え、中東依存度も上がった」とあるので、やはり当てはまるのは「イ」であると確認できます。

 

 

 

〔問3〕

 

「記述問題」ですが、大問3〔問3〕と同じく、「理由」を述べるだけなので、それほど難しくはありません。

 

「テーマ」は、「国際競争力」です。

 

この設問は一見、新出の「内容」のように思えますが、その「テーマ」は既出です。

平成25年の大問3の〔問3〕と酷似しています。

 

「グローバル化」に対応し国際競争力を高める近隣諸国に対し、日本の「優位性」が相対的に低下しているという「課題」が、設問の「テーマ」となっています。

 

都立の社会の「記述問題」は、日本あるいは世界の「課題」、「問題」を取り上げることが多いので、普段から意識しておきましょう。

(推薦入試を考えている人は、「なおさら」ですね。)

 

 

 

さて、今年の都立の社会ですが、1問ずつチェックしながら、実感したのは、「国語の能力」がなければ得点できない、ということでした。

 

なによりも、設問を「読解」できなければ答えを導けないわけです。

 

それから、「社会の知識」というよりも、むしろ、「広範な一般常識」を持っているほうが「有利」になるような作りになっています。普段から、本や文字媒体を通して「いろいろな知識」に「アンテナ」を張っている受験生は強さを発揮するでしょう。

「読書量」、そして語彙を含む「知識量」は、「国語の能力」に直結します。

 

そして、やはり「記述問題」ですね。

5科の中で、「本格的」な「記述問題」が出題されるのは社会だけになっています。(理科の「記述問題」はシンプルな内容になってしまいました。)

 

 

国語の入試問題が荒廃的な様相を強める一方で、社会の入試問題が「国語の能力」を検査する機能を果たすという、ちょっとねじれた状況になっています。

 

 

 

最後に、このブログを読んで、「勘違い」をする人がいそうな気がしたので、念のため、ちょっとだけ書きます。

 

よく、あちらこちらで、入試問題の「傾向」という話題がとり上げられますが、その本質をとらえ違えている人が割と多くいるように思います。

 

「ある事項」の「出現頻度」だけを見ても、それだけでは、有用なデータとはなりません。

 

また、「出題パターン」のような、表面上の「形式」ばかりにとらわれるのも、ちょっと危ないと思います。特に歴史分野で、過去の「出題パターン」に特化した「マニュアル」に依存しすぎてしまうと、対応力が退化し、新しい形式や新出の内容が出てきたときに困るかもしれません。

 

 

 

重要なのは、入試問題の「構造」をとらえることです。

 

「構造」を理解していれば、新奇の形式や初出の内容がちりばめられた問題が、本当に「新傾向」なのかどうか、見定めることができます。また、それに対応することができるわけです。

 

 

で、その「構造」って何?という話ですが、長くなるので、また、いつか。

 

 

(ivy 松村)

 

 

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