塾の合格実績の話③

塾の合格実績水増しは、基本的に「経営判断」で行われます。

自ら率先して嘘をつきたいと思う人間がいるはずもありません。

 

世の中には、残念ながら合格実績を水増しするような塾がありますが、そのほとんどが大手塾です。

個人塾では、そのような話は今のところ聞いたことがありません。

 

合格者~名を達成するように、という、「上」からの「指示」が発せられるのです。

それを守るために、心を削って「努力」を重ねる従業員たちがいるのでしょう。

 

強靭な命令系統を通してのみ、そのような道義に反する行為が可能となります。

 

実際にその作業に携わらなければならない従業員は、ある意味で被害者であるといえるのかもしれません。

 

 

また、大手になればなるほど「水増し」の敷居が低くなります。

分母が大きいので、「ごまかす数字」がわずかなものであると感じ、罪悪感が希薄になるのでしょう。

心理的な錯覚にすぎませんが、0なのに1であると嘘をつくよりも、100という数字を101であるとごまかすことのほうが、抵抗が少なくなるのです。

 

さらに、教室数、生徒数の多い大手塾の合格者数の合計は、検証することが困難なため、たとえ間違っていても気づかれないで済むことが多いのです。

 

 

 

さすがに全くでたらめな数字を掲げる塾は少ないようです。

完全に架空の数字を使うことに、普通の人間の精神は耐えられないのです。

ですから、こうした背徳的な行為を肯定する何かしらの「根拠」が必要となります。

 

「講習生」「テスト生」「講座受講生」「過去在籍性」など、縁のあった生徒たちの合格は積極的に取り込まれます。

 

こうした行為に、現場の塾の教師が、自ら動機づけられることはあり得ません。

経営者が圧力をかけるのです。

~名の合格者を必ず出します、と「約束」させられるのです。

 

 

 

大手塾の社員はいくつかの類型に分けられますが、「合格実績」へのこだわりは、根本的な資質に関わるものなのかもしれません。

 

 

上司の希望に従って合格実績の水増しに加担するタイプと、そうでないタイプの人がいます。

 

加担するタイプは、さらに、ただ言われたことを仕方なく行う者と、出世のために積極的に行う者に分けられます。

 

出世のために合格者の水増しに加担した人の噂を聞いたことがあります。

ある種の、「土俗的」な企業では、人間性の否定が評価につながります。

倫理よりも服従に価値をおく者は、従者としては一流です。

「泥をかぶる仕事」を率先して行えば、「おぼえめでたい」というわけです。

もちろん、そこには、耐えがたい葛藤があるにちがいありません。

 

 

合格者の水増しに加担しないタイプの塾社員は、さらに、ただ面倒だからやらないという者と、良識、プライドゆえに行わない者とに分けられます。

 

私が見知っている人は、だいたい後者のタイプの人たちだと思います。

多くの塾教師が、これを「一線」であると考えています。

 

 

 

合格者数の公表が、合格発表日から数日かかるような塾は、「なんとかして」合格者数を底上げしようとして、「優秀な社員たち」があらゆるところに電話をかけまくっている塾です。

 

一度問い合わせがあった家、一回模試を受けに来た生徒、退塾した生徒、講習に来たことのある生徒…などなどに「一応」きいてみるわけです。

 

これだけ情報伝達技術が発達した現代に、当日のうちに塾内の合格者の合計人数が把握できないなんて、あり得ない話ですよね。

合格発表の終わった夜に、「これからが勝負だ」などといっている塾の従業員がいたら、ギャグの世界の住人かと思ってしまいます。

 

 

都市伝説のような話を聞いたことがあります。

合格実績を「譲ってもらう」ために、どこかの塾の偉い立場の人が、どこかの個人塾へ出向いて、地面に頭をこすりつけるようにしてお願いしたことがあったのだそうです。

なんでも、社長に、どうやってでも100人の合格者を達成するように、という指示を受けていたのだそうです。まるで、「ホームランのサインを出す監督」のコントのようです。

この話を聞いたとき、2つの矛盾する感情が「ないまぜ」となった、奇妙な感動を覚えました。

嫌悪感と、敬意です。

 

 

世間は、「学習塾全体」が、醜い商売合戦のために、合格者の人数をごまかすのだと思いがちです。

しかし、塾の人間のひとりひとりがみな、主体的に世間をだましてやろうと考えているわけではありません。

 

 

理不尽な指示に反旗を翻す人たちの話も聞いたことがあります。

ある塾の合格実績の表示に異変がみられたときには、その塾に何かしらの変化が起こっているというサインなのかもしれません。

 

 (ivy 松村)