「違くね?」と思ったら、やっぱり「違かった」

今回は「違う」という言葉について考えてみたいと思います。

おそらく日本語の中で今、最も使われ方に乱れが生じている言葉が「違う」です。

 

前回は、「間違う」を取り上げました。

「間違う」は「違う」という動詞に接頭語の「間」がついたものでした。

 

似ていますが、意味は大きく違います。

「間違う」は、正しくない認識を持ったり、ふさわしくない応答をしてしまったり、適切ではない行動をとってしまったりすることです。

「違う」は、同じではないということで、「通常は」ネガティブな意味を持ちません。

 

 

さて、「違う」もやはり動詞です。

品詞としては動詞なのですが、この言葉は、どうにも動詞らしくないのです。

 

動詞を意味の上から説明するならば、「行為、動作、作用、存在」を表す品詞であるということができると思います。一方、形容詞は、「様子、状態、性質、心情」を表す品詞であるということができます。

 

「違う」は、意味からとらえると、「様子、状態、性質」を表しているといえますから、形容詞に近いと感じられます。事実、英語では「違う」に相応する訳語は「different」という形容詞です。

 

もちろん、英語にも「differ」という動詞がありますが、一般的に使われるのは「different」です。それは、「違う」という意味内容を告げるのには、形容詞である「different」を用いたほうが、より自然であると考えられているからでしょう。

 

 

 

「違う」はワ行五段活用動詞なので、以下のような活用をします。

(太字が活用語尾、「 」は接続する語の例)

 

ちが「う」   (未然形)

ちが「ない」  ( 〃 )

ちが「ます」  (連用形) 〈※ちが「た」(連用形):促音便〉

ちが「。」   (終止形)

ちが「とき」  (連体形)

ちが「ば」     (仮定形)

ちが「!」     (命令形)

 

 

未然形の「違おう」(意志)や命令形「違え」という形に少し違和感がありませんか。

「違う」の意味内容が形容詞に近い性質を持っているために、「行為者」の存在を想定することが不自然であると感じられるからでしょう。

 

 

 

さて、現在、上に示したような正式な活用を用いない「違う」の使われ方が広まりつつあります。

 

「違くね?」

「違かった」

 

というような言葉づかいです。

 

 

「違くね?」という表現を使う人は、この「ね」を、終助詞の「ね」と混同しているかもしれません。この「ね」は「ない」という助動詞が短縮されたものです。さらに、疑問・質問を表す終助詞の「か」が省略されています。

 

原形を再現すると「違わないか」となるでしょう。

 

「違かった」は、本来ならば、「違った」となるはずです。

 

 

 

言語の感性が鋭い方は、すでにお気づきになっているかもしれません。

 

これらの表現は、「違う」という動詞に、形容詞の活用をさせているのです。

 

形容詞の活用は一種類しかありません。「美しい」という形容詞で活用を確認してみましょう。

(太字が活用語尾、「 」は接続する語の例)

 

うつくしかろ「う」           (未然形)

うつくしかっ「た」           (連用形)

うつくしく   「なる」        ( 〃    )

うつくし 「。」           (終止形)

うつくし 「もの」        (連体形)

うつくしけれ「ば」           (命令形)

 

 

「違ね?」は、形容詞の連用形の活用である「く」を使っていることがわかります。

「違かった」も形容詞のもうひとつの連用形の活用である「かっ」を使っています。

 

 

 

文法事項の確認をしましょう。

 

動詞に、打消しの助動詞の「ない」を接続するときは動詞を未然形に活用させます。

ところが、とても紛らわしいのですが、形容詞を打ち消す「ない」を接続するときには、形容詞を連用形に活用させます。

形容詞を打ち消す働きをする「ない」は、「補助形容詞」とか「形式形容詞」と呼ばれる形容詞の一種です。つまり、「用言」なので、連用形になるのです。

 

「違わない」・・・「違わ」(動詞の未然形)+「ない」(打消しの助動詞)

「美しくない」・・・「美しく」(形容詞の連用形)+「ない」(補助形容詞)

 

 

動詞に、過去や完了の意味を持つ助動詞の「た(だ)」を接続するときには、動詞を連用形に活用させます。「違う」は、「音便」という特殊な活用をする動詞のひとつで、「っ」という活用語尾が現れます。(他に、「走った」「蹴った」「買った」などがあります。)

本来なら、「違った」としなければならないのですが、わざわざ、一音多くしてまで、形容詞の連用形の活用語尾を使い、「違かった」としています。

 

 

 

「違う」が、正しい活用で用いられないのは、この語が形容詞と勘違いされているからです。

 

その原因のひとつは、冒頭で述べたように、「違う」という語の概念が、形容詞の性質に近いからです。

 

さらに、大きな原因がありそうです。

 

「違う」の連用形と転成名詞はともに「違い」という言葉ですが、この語の形式が混同に拍車をかけていると考えられます。

つまり、「い」で終わるという語形が、形容詞の終止形と同一であるために、「違い」という形容詞が存在するのだと勘違いしやすくなっているのです。

 

 

 

今は定型に違反していることになっている言葉づかいであっても、使用者が多数派を形成すれば、許容されることになります。

ときに、ある言葉が辞書に載ることが大きな話題として取りあげられることがありますが、それは、新しい言葉が社会的に認知されるということを示しているからです。

 

たぶん、私を含め、今は、多くの人が上記のような言葉づかいを認めがたく感じていると思いますが、未来には、一般的な表現になっているかもしれません。

 

 

 

しかし、「違くね?」は現時点では間違った言葉づかいです。

「違くね?」と何度も言っていると、「その言い方、違くね?」と言われてしまうかもしれません。でも、その言い方もおかしいので「それも違くね?」と突っ込まれてしまうかもしれません。すると、「だから、その『違くね?』っていう言い方が違くね?」と指摘されるかもしれません。

 

無限ループに気を付けましょう。

 

 (ivy 松村)