「H」の話⑦

最後に、「H」に与えられたもうひとつの「役割」を紹介して、「H」の話は終わりです。

 

 

前に、古代ギリシアにおいて、「ハヒフヘホ」=[]の音が失われ、[]の音を表す「Η」の文字は「ヘータ」という呼称から「エータ」という呼称に変わったという話をしました。

 

その後、「Η」=「エータ」には、別の「役割」が与えられました。

それは、「長音」の表記です。

 

「長音」とは、「伸ばす音」のことです。

 

 

 

4月に入って、猫も杓子もメジャーリーグの大谷選手の話題で持ちきりですが、彼のユニフォームには「OHTANI」と書かれていますね。

 

「オータニ」の「ー」を表すのに、「H」が使われています。

 

 

英語で日本語の語彙を表記する場合、一般的に使われているのは「ヘボン式ローマ字」です。

(小6の生徒たちは、英語の授業でヘボン式ローマ字を練習しました!)

 

 

「ヘボン式ローマ字」では、基本的に「長音」を「省略」して表記します。

 

たとえば、「東京」は「Tokyo」、「九州」は「Kyushu」になります。

「大阪」は「Osaka」、「大分」は「Oita」です。

 

 

大谷選手の「OHTANI」のような表記は「ヘボン式ローマ字」ではありません。

学校や塾で習う「ヘボン式ローマ字」以外にも、「ローマ字」にはいくつかの「種類」があるのです。

 

 

 

「ヘボン式ローマ字」で表記すると、「大谷」は「OTANI」です。

 

そうなると、「大谷」なのか「小谷(おたに)」なのか判別できないわけですが、英語にとって、それは「日常的なこと」です。

 

「読み方がわからない言葉」というのは、英語の中にありふれています。

(実は、それは日本語でもいえることで、日本にも「読むのが難しい熟語」がたくさんあります。)

 

 

しかし、スポーツ選手は、自分の名前をファンになるべく正確に覚えてもらいたいわけです。

それで、スポーツ選手の登録名やローマ字の表記は、「H」を使って「長音」を表し、より正確な発音に近づけているのだと思います。

 

 

 

「H」で「長音」を表す表記法は、日本人が勝手に考えてやっているのではなく、古代ギリシア語に「ルーツ」があります。

 

英語は、それを受け継ぎませんでした。

一方、それを受け継いでいる言語があります。

 

ドイツ語です。

 

 

以下のドイツの音楽家の名前を確認してみましょう。

 

Mendelssohn「メンデルスゾン」

Brahms「ブラムス」

 

 

彼らは、クラシック音楽の世界では非常に良く知られた「巨匠」です。

 

「h」が、「長音」を担っているのがわかりますね。

 

 

大谷選手の「OHTANI」に見られるように、日本語を「ローマ字」で表記する際に「長音」を「H」で表すことがあります。

 

実は、それは、古代ギリシアに由来する、正統な「H」の使い方のひとつなのです。

 

 

(ivy 松村)

 

連絡「連休中の開校日」

4月30日(日)~5月6日(日)は、通常授業はありませんが、5月1日(火)、5月2日(水)は定期テスト勉強を進められるように、校舎を開けますので、中学生は勉強に来てください。

 

中間テストのない中学の生徒も、できる限り参加してください。

 

 

連休中の開校日:

 

・5月1日(火) 18時~22時

・5月2日(水) 18時~22時

 

 

 

しっかり準備をして、最高得点をめざそう!

 

 

 

古代遺跡の前で、暑さにへばっている若き日の私。

 

Palenque Pyramid

 

 

(ivy 松村)

 

 

「H」の話⑥

「ph」は「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」=[]の発音になります。

 

 

勘のするどい人はもうすでに気づいているかもしれませんが、やはり古代ギリシア語に2つの「パピプペポ」があったわけです。

 

古代ギリシア語の語彙がラテン語に移植される際に、1つが「p」になり、もう1つが「ph」になりました。

 

やがて、「ph」の発音は[]になりました。

 

 

 

「ph」を含む古代ギリシア語、ラテン語由来の語彙をみてみましょう

 

 

pharmacy「ファーマシ」(薬屋)

phantom「ファントム」(幽霊)

philosophy「フィロサフィ」(哲学)

physics「フィジックス」(物理学)

phase「フェイズ」(段階)

phenomenon「フェノメノン」(現象)

photograph「フォウトグラフ」(写真)

phrase「レイズ」(句)

 

 

atmosphere「アトモスフィア」(大気)

earphone「イヤフォン」(イヤホン)

elephant「エレファント」(ゾウ)

graph「グラ」(図表)

sapphire「サファイア」(サファイア)

symphony「シンフォニ」(交響曲)

typhoon「タイーン」(台風)

telephone「テレフォウン」(電話)

dolphin「ドルフィン」(イルカ)

hieroglyph「ハイエログリ」(象形文字)

biography「バイオグラィ」(伝記)

pamphlet「パンレット」(パンフレット)

metaphor「メタファー」(隠喩)

 

 

 

数は少ないですが、「rh」もあります。

 

やはり、古代ギリシア、ラテン語由来の語彙です。

 

これは、単純に「ラリルレロ」=[]の発音です。

したがって、「h」が無音化されていると考えることができます。

 

 

rhyme「イム」(韻)

rhapsody「プソディ」(狂詩曲)

rhythm「ズム」(リズム)

rhetoric「トリック」(修辞)

 

 

 

まったくどうでもいい個人的な話ですが、私は「ラプソディ」という言葉を、わりと気に入っていて、けっこう暗喩的に使うことがあります。

「ラプソディ」は、日本語で「狂詩曲」と訳されます。

それで、「教師」という意味を含ませたり→「狂師」というような意味合いに展開させたりして、「ラプソディ」にかけて言葉遊びをすることがあります。

 

 

 

その他、英語の代表的な「二重字」に、「sh」があります。

 

「sh」は、「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」=[ʃ]を表します。

 

 

she「ー」(彼女は)

sheep「ープ」(羊)

shade「シェイド」(陰)

shape「シェイプ」(形)

ship「ップ」(船)

shout「シャウト」(叫ぶ)

shirt「シャート」(シャツ)

shut「シャット」(閉める)

shampoo「シャンプー」(シャンプー)

shoe「シュー」(靴)

should「シュド」(~するべきである)

shrine「シュライン」(寺院)

show「ショウ」(見せる)

shoulder「ショウルダー」(肩)

short「ショート」(短い)

shock「ショック」(衝撃)

shop「ショップ」(店)

 

 

 

語末に「sh」のある単語も多くあります。

 

 

wish「ウィシュ」(望む)

crush「クラシュ」(押しつぶす)

Spanish「スパニシュ」(スペイン人)

dish「ディシュ」(皿)

foolish「フーリシュ」(愚かな)

fish「フィシュ」(魚)

flash「フラシュ」(きらめき)

 

 

 

「sh」以外で、[ʃ]の音が現れる単語もたくさんあるので注意が必要です。

 

フランス語由来の「ch」も[ʃ]と発音します。

 

machine「マーン:məʃíːn」(機会)

 

 

また、以下のような単語:

 

station「ステイション:stéiʃən」(駅)

information「インファメイション」:ìnfərméiʃən」(情報)

 

「tion」は「ション」と読みますね。

 

 

さらに、以下のような単語:

 

ocean「オウシュン:óuʃn」(海)

sugar「シュガー:ʃúgər」(砂糖)

sure「シュア:ʃúər」(確かに)

 

 

 

「h」が含まれる「二重字シリーズ」の最後は、「wh」です。

 

 

「wh」は、かつては「hw」と綴られていました。

 

したがって、「what」などは、「hwat」=「フワット」のような発音だったわけです。

 

現在は、「what」の「h」は無音化されているので、「ワット」ですね。

 

今でもたまに「フワット」という人がいます。

これは「フ」→「ワ」という発音ですから、昔の「h」→「w」が踏襲されているといえます。

 

 

以下の語彙は、一般的には、「h」が無音化されています。

 

which「ウィッチ」(どちら)

where「ウェアー」(どこで)

when「ウェン」(いつ)

why「イ」(なぜ)

what「ット」(何)

 

wheel「ウィール」(車輪)

whisper「ウィスパー」(ささやく)

whistle「ウィスル」(口笛を吹く)

whale「ウェイル」(クジラ)

white「イト」(白い)

 

 

日本語のカタカナ表記では、「ホ」が置かれることがありますが、そのまま発音しても英語話者にはほとんど通じません。

 

「wheel」→「ホイール」

「whale」→「ホエール」

「whistle」→「ホイッスル」

「white」→「ホワイト」

 

 

 

以下の単語は、逆に、「w」が無音化されています。

 

 

who「ー」(誰)

whom「ーム」(誰に・誰を)

whose「ーズ」(誰の)

whole「ール」(全体の)

 

 

(ivy 松村)

「H」の話⑤

古代ギリシア語には、「タチツテト」の音が2つありました。

したがって、「タチツテト」を表記するための文字が2種類ありました。

 

1つは「Τ」です。この文字は「タウ」といいます。

これが英語の「T」(ティー)の由来ですね。

 

もうひとつが「Θ」です。この文字は「テータ」と呼ばれました。

「テータ」は、強く発音するもうひとつの「タチツテト」を表記するために使われました。

 

そして、古代ギリシア語がラテン語に取り入れられる際に、「テータ」は「二重字」で表記されるようになります。

 

「th」です。

 

しかし、ラテン語ではその後、両者の発音は同一化し、「th」は「タチツテト」=[]の音に統合されます。

 

そのため、イタリア語、フランス語、ドイツ語などの現代の西欧言語では、「th」を[]と発音します。

 

 

たとえば、「ーマ(主題)」というギリシア語由来の「ドイツ語」があります。

その綴りは「Thema」です。

 

また、「カリーヌ」というフランスで人気のある女の子の名前があります。

その綴りは「Catherine」になります。

 

 

 

さて、ややこしいことに、「本家」のギリシアでは、「Θ」=「テータ」の音に変化が生じます。上の歯と下の歯の間に置いた舌の間から息を流して発音する独特の音です。

 

それは、英語の「th」と同じ音です。

 

thank「ンク」(感謝する)

think「ンク」(思う)

three「リー」(3)

 

などの「th」です。

 

これは、日本語には存在しない音です。

慣例的には「サシスセソ」で書きあわらしますが、実際には「サシスセソ」の音ではないので、注意してください。

 

 

 

発音に変化が生じたことによって、「Θ」の呼称が変化します。

「Θ」は、「シータ」と呼ばれるようになります。「シータ」の「シ」は「th」の音です。

 

ちなみに、「th」の発音ですが、この音を表す「発音記号」には「シータ」の小文字が使われます。

 

それは「θ」です。

 

 

他の言語とは違い、英語の「th」は[θ]の音を担っています。

 

それは、偶然かもしれません。あるいは、ギリシア語の発音の変化を踏まえたものなのかもしれません。

 

 

英語は、古くから[θ]の音を有していました。英語固有の語彙に[θ]の発音がたくさんあります。

その音を表すのに「th」が使われました。

 

それに加えて、古代ギリシア、ラテン語の「th」も[θ]の音で発音するようになったのです。

 

「th」は、英語と他の言語で発音が異なる綴りなので、気をつけてください。

 

 

先ほど触れた単語を見直してみましょう。

 

「Thema」(テーマ)は英語ではないので、注意が必要です。

英語では、「theme」と綴ります。その発音は「ーム」です。

 

また、「Catherine」という名前の女の子は、英語話者には「キャリン」と呼ばれます。

 

 

 

「th」=[θ]のつく古代ギリシア語、ラテン語由来の語彙を見てみましょう。

 

theater「アター」(劇場)

sympathy「シンパー」(同情)

theory「オリー」(理論)

panther「パンー」(黒豹)

myth「ミ」(神話)

method「メッド」(方法)

 

 

その他、「th」=[θ]の英語の語彙を確認しましょう

 

 

thousand「ウザンド」(千)

third「ード」(3番目の)

thirsty「ースティ」(のどが渇いた)

Thursday「ーズデイ」(木曜日)

thief「ーフ」(泥棒)

thick「ック」(厚い)

thin「ン」(薄い)

thing「ング」(もの、こと)

through「ルー」(~を通って)

throw「ロウ」(投げる)

throat「ロート」(のど)

 

 

 

「th」=[θ]が語末にあらわれる語彙もあります。

 

 

wealth「ウェル」(富)

smooth「スムー」(滑らかな)

tooth「トゥー」(歯)

path「パ」(小道)

faith「フェイ」(信念)

health「ヘル」(健康)

mouth「マウ」(口)

month「マン」(1か月)

length「レン」(長さ)

worth「ワー」(~に値する)

 

 

 

英語の「th」は、さらにもう一つの発音を担っています。

 

θ]を強く発音した音で、慣例的に「ザジ(ディ)ズゼゾ」で表記します。

 

 

the「」(冠詞)

this「ディス」

that「ザット」

 

などの発音です。

 

この発音の発音記号は[ð]です。

 

 

 

「th」=[ð]の英語の語彙をみてみましょう。

 

 

than「ン」(~よりも)

these「ーズ」(これらの)

there「ア」(そこで)

their「アー」(彼らの)

therefore「アフォー」(それゆえに)

they「イ」(彼らは)

them「ム」(彼らに・を)

then「ン」(そのとき)

though「ウ」(~にもかかわらず)

those「ーズ」(あれらの)

 

other「アー」(他の)

another「アナー」(もう1つの)

either「イーー」(どちらかの)

with「ウィ」(~と一緒に)

weather「ウェー」(天気)

whether「ウェー」(~かどうか)

although「オルウ」(~にもかかわらず)

gather「ギャー」(集める)

southern「サン」(南の)

together「トゥゲー」(一緒に)

father「ファーー」(父親)

farther「ファーー」(さらに遠く)

further 「ファーー」(さらに遠く)

feather「フェー」(羽)

brother「ブラー」(兄・弟)

bother「ボーー」(悩ます)

mother「マー」(母親)

neither「ニーー」(どちらも~ない)

northern「ノーン」(北の)

rather「ラー」(むしろ)

 

 

 

以下の単語の発音は要注意です。

名詞と動詞で、「th」の「発音」が違います。

 

 

bath「バ:[θ]」(入浴)

bathe「ベイ:[ð]」(入浴する)

 

breath「ブレ:[θ]」(息)

breathe「ブリー:[ð]」(息をする)

 

cloth「クロー:[θ]」(布)

clothe「クロウ:[ð]」(着る)

 

 

補足ですが、「cloth」の複数形は、

 

cloths「クロース:[θs]」(布:複数形)

 

になります。([(ð)]で発音する人もいるみたいです。)

 

 

ところが、「衣服」を意味する単語は、また、少し違います。

 

clothes「クロウズ:[]」(衣服)

 

になり、[ð]を発音しないので、注意しましょう。

 

 

さらに補足しますが、この「clothes」(衣服)の発音は、

 

close「クロウズ」(閉める)

 

と同じです。

 

しかし、

 

close「クロウス:[]」(近い)

 

とは発音が違うので気をつけてください。綴りは同じですが、[]ではなく[]です。

 

 

 

はたまた余談ですが、歴史上もっとも偉大な音楽家の1人、「Beethoven」ですが、この姓名は、「beet」と「hoven」という単語が複合されたものなので、「t」と「h」の間に意味上の「句切れ」があります。

 

ドイツ語では、「ベートホーフン」に近い発音です。

英語では「ベィトウヴン」に近い発音で、「h」の音が消えます。(「h」を発音する人もいます。)

 

「beet」というのは「ビート」、いわゆる「てんさい」(サトウダイコン)のことです。「hoven」は、「ビート」と組み合わせる文脈では「農場」になります。ですから、「大根畑」というような意味の名前になりますね。

 

彼はドイツ生まれの音楽家ですが、祖先は現在のベルギーに住んでいたオランダ系の一族でした。

 

フルネームは「Ludwig van Beethoven」(ルードヴィッヒ・ファン・ベートホーフン)です。

「van」はオランダ語の前置詞で、英語の「of」または「from」に当たります。ドイツ語では「von」になります。

「van」はオランダ系の名字によく使われます。したがって、ヨーロッパ人には、彼がもともとドイツ系ではないことがすぐにわかります。

 

 

「ひまわり」で有名なオランダ人画家、「ゴッホ」にも「van」がつきます。

→「Vincent van Gogh」(フィンセント・ファン・ゴッホ)

 

ちなみに、「Gogh」の発音は、言語や地域によって違います。「gh」がやっかいですね。

「ゴッホ」という人もいますが、「ゴフ」や「ゴウ」と読む人もいます。

 

多くのアメリカ人は、「ヴィンセント・ヴァン・ゴウ」といいます。

 

 

(ivy 松村)

「H」の話④

「gh」は、基本的に発音されない「黙字」です。

 

 

weight「ウェイト」(重さ)

eight「エイト」(8)

ought「オート」(~するべきだ)

although「オルゾウ」(~にもかかわらず)

caught「コート」(catchの過去形)

sigh「サイ」(ため息をつく)

sight「サイト」(視界)

straight「ストレイト」(まっすぐな)

through「スルー」(~を通って)

though「ゾウ」(~にもかかわらず)

thought「ソート」(thinkの過去形)

daughter「ドーター」(娘)

delight「デライト」(喜ばせる)

taught「トート」(teachの過去形)

night「ナイト」(夜)

neighbor「ネイバー」(隣人)

high「ハイ」(戦う)

height「ハイト」(高さ)

fight「ファイト」(戦う)

flight「フライト」(飛行)

fright 「フライト」(恐怖)

bright「ブライト」(明るい)

brought「ブロート」(bringの過去形)

bought「ボート」(buyの過去形)

might「マイト」(mayの過去形)

light「ライト」(光)

right「ライト」(正しい、権利、右の)

 

 

 

語末に「gh」が置かれたときに、発音されることもあります。

 

その際の発音は「フ」=[]です。

 

]は、日本語の「ハヒフヘホ」の「フ」ではないので注意しましょう。下唇を軽く噛み、弾くようにして発音します。

 

 

enough「イナ」(十分な)

cough「コ」(咳)

tough「タ」(頑丈な)

laugh「ラ」(笑う)

rough「ラ」(粗い)

 

 

 

昔は、「gh」が発音されていました。

その音は、「強く発音するハヒフヘホ」です。

 

発音記号は[x]です。

慣れないと戸惑うと思いますが、[x]は「ハヒフヘホ」を表す発音記号です。

 

x]の音は消失してしまって、英語からなくなりました。

そのため、この[x]の発音記号は、「現代英語には」みられません。

 

 

古い時代の英語には[x]の発音が存在し、それに「gh」が当てられたのです。

 

英語の「gh」の発音は、

 

x]→[]→「無音」

 

と変化してきたわけです。

 

]の音が残っている単語は、無音化されずに発音が残存したものです。

 

 

 

x]=「強く発音するハヒフヘホ」は、ドイツ語の「ch」の音だったことを覚えているでしょうか。

 

x]の発音を示すのに、ドイツ語は「ch」を用いたわけです。一方、英語は「gh」を代用したわけです。

 

ドイツ語の「ch」と古い英語の「gh」はともに同じ音→[x]を表すということになりますね。

 

(発音体系に少しだけ「ズレ」があって、ドイツ語の「ヒ」の発音は[x]では表さないのですが、まあ、あまり重要ではありません。)

 

両者は、驚くほどに「照応」しています。

英語とドイツ語は、そもそも「親類」の言語だからです。

 

 

 

以下の例を見てみましょう。

 

 

英語 ドイツ語 ドイツ語の発音 意味
eight acht 「アト」 (8)
high hoch 「ホッ (高い)
night Nacht 「ナト」 (夜)
daughter Tochter 「トター」 (娘)
laugh lachen 「ラッン」 (笑う)
light Licht 「リト」 (光)
right recht 「レト」 (正しい)

 

 

 

英語とドイツ語の語彙が非常によく似ていることがわかります。

 

英語は、そもそも「ドイツ語の方言」だからです。

 

5世紀ごろに、ドイツ西部に住んでいた「ゲルマン人」の一派が、ブリテン島(イギリス)に渡り、住み着きました。彼らの話していたドイツ語が、英語の母体となったのです。

 

その後、英語はフランス語などの影響を受け、大きく変化していきますが、日常生活で頻繁に使用される「基本語彙」などを中心に、古い形や発音を残した単語があります。

 

前に、英語をよく知るためにはフランス語を学ぶとよい、と書きましたが、もし、英語の「原風景」を知りたいのなら、ドイツ語を学ぶのもよいと思います。

 

 

 

「gh」の例外も見ておきましょう。

 

Edinburgh 「エディンバラ」(エジンバラ:スコットランドの都市)

 

 

スコットランドは、イギリス=「連合王国」を構成する国(地域)のひとつで、「エジンバラ」はその「首都」です。

 

「Edinburgh」は、語末の「ア」という母音が「gh」で表されているので、ちょっと珍しい単語です。

英語やドイツ語などの「ゲルマン語」には、城や都市を意味する「burg」(バーグ、ブルグ)という語がありますが、それが訛って、「バラ」になっているようです。

 

 

 

前に、「gh」の「h」が無音になって、[g]の発音になる語彙の例として、「ghost」(ゴウスト:幽霊)や「Ghana」(ガーナ)を挙げましたが、それ以外にも、

 

spaghetti「スパゲッティ」(スパゲッティ)

yoghurt 「ヨーグルト」(ヨーグルト)

 

などがあります。

 

「spaghetti」は、もともとイタリア語なので、「h」が発音されません。

 

「yoghurt」は、「h」を書かない表記もありますが、「h」のある表記もよく見られます。

 

 

(ivy 松村)

 

 

「H」の話③

「H」を用いた「二重字」は、意外と多くあります。

 

たとえば、「ch」「sh」「ph」「th」「gh」「wh」「rh」などです。

 

この中で、「ch」は少し厄介です。「ch」には、複数の発音があります。

 

 

スペイン語、イタリア語、フランス語のそれぞれの言語の「ch」の発音を確認してみましょう。

 

・スペイン語の「ch」…「チ」→「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」

・イタリア語の「ch」…「ク」→「カキクケコ」

・フランス語は「ch」…「シュ」→「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」

 

 

英語の「ch」は、いずれの発音も有しています。

つまり、英語において「ch」は、「チ」と読む可能性もあれば、「ク」と読む可能性もあります。

それだけでなく「シュ」と読む可能性もあるわけです。

 

「ch」の綴りが出てきたときは、発音記号を確認するようにしましょう。

 

・「チ」の発音記号→[tʃ

・「ク」の発音記号→[k

・「シュ」の発音記号→[ʃ

 

 

 

3つの発音の中で、英語の「ch」の「基本」となるのは「チ」です。

 

China「チャイナ」(中国)

child「チャイルド」(子供)

champion「チャンピオン」(王者)

chance「チャンス」(機会)

charity「チャラティ」(チャリティ)

church「チャーチ」(教会)

cheer「ア」(応援)

chicken「キン」(鶏肉)

cheese「ーズ」(チーズ)

cheap「ープ」(安い)

choose「チューズ」(選ぶ)

chair「チェア」(椅子)

change「チェンジ」(変わる)

chocolate「チョコレト」(チョコレート)

chopsticks「チョプスティクス」(箸)

 

 

枚挙にいとまがありません。

「ch」の付く英語の基本語彙は、一般的には「チ」で読まれます。

 

 

 

「ch」を「ク」と発音するのは、古代ギリシア語、ラテン語(あるいはイタリア語)に由来する語彙です。

 

 

chaos「オス」(混沌)

chameleon「メレオン」(カメレオン)

charisma「リスマ」(人を心酔させる魅力)

 

character「ャラクター」(特徴)

 

Christ「ライスト」(キリスト)

Christmas「リスマス」(クリスマス)

 

chemistry「ミストリー」(化学)

chemist「ミスト」(薬屋)

 

chronicle「ロニクル」(年代記)

 

cholera「レラ」(コレラ)

chorus「ーラス」(合唱)

 

 

 

なじみのある単語で「ch」=「ク」の発音をするものもけっこうありますよ。

 

 

anchor「アンー」(最終走者)

school「スール」(学校)

technic「テニック」(技術)

technology「テノロジー」(科学技術)

orchestra「オーストラ」(管弦楽団)

echo「エー」(反響)

 

 

 

また、「ch」=「ク」になる単語は、古代ギリシア語、ラテン語に由来する語彙なので、学術用語や専門用語、あるいは抽象的な概念や造語などによく見られます。

 

 

anachronism「アナロニズム」(時代遅れの)

archive「アーイヴ」(記録文書)

scholarship「スラーシップ」(奨学金)

 

archeology「アーオロジー」(考古学)

architecture「アーテクチャー」(建築)

anarchy「アナーー」(混乱)

scheme「スーム」(計画、体系)

 

epoch「エポッ」(新時代)

synchronize「シンロナイズ」(同時性を持つ)

stomach「スタマッ」(胃)

monochrome「モノローム」(白黒)

 

psychology「サイロジー」(心理学)

mitochondria「ミトンドリア」(ミトコンドリア)

 

 

 

「archive」(アーカイヴ:記録文書)は「achieve」(アチーヴ:達成する)と混同しそうになってまぎらわしいので、気をつけてください。

 

 

 

他にも、

 

ache「エイ」(痛み)

 

という単語がありましたが、これは、ちょっと特殊です。

この語は古くからある英語の語彙であるにもかかわらず、その由来が古代ギリシア語であると「勘違い」されてしまったために、「エイク」の綴りに「ch」が当てられてしまったのだそうです。

 

 

 

また、

 

choir「ワイアー」(聖歌隊)

 

という単語がありますが、この単語の発音、めっちゃ注意してください。

 

「oi」を「ワ(イ)」と発音します。「oi」を「ワ」と読むのは、フランス語のルールです。

つまり、この語はフランス語由来なのです。

ということは、この語は、古くはおそらく「ショワー」と発音されていたはずなんですよね。

フランス語では「ch」は「シュ」になるからです。

 

しかし、この語は「chorus」(コーラス:合唱)などと同じ語源で、古代ギリシア語由来です。そのため、「ch」が「ク」に「復元」されたのだと思います。

しかし、「oi」は「フランス語の発音」のまま維持されたので、難解な発音の単語になってしまったのでしょう。

 

 

「oi」=「ワ」のフランス語の例は、他にも、

 

croissant「クロワソン」)(クロワッサン)

foie gras「フォワグラ」(フォアグラ)

 

などがあります。

 

 

あとは、フランス語で「歴史」を意味する「histoire」という語も、「イストール」と発音しますね。

 

 

 

まったくどうでもいい話ですが、日本に住んでいるフランス人の「必殺ジョーク」があって、スマホなどがまだ普及していないころ、あるフランス人が道に迷って、しかたなく電話をかけてきたので、周りに何か目立つ建物がないかきいてみたところ、「ワワ」という建物がある、と。

よくわからないので、「ワワ」って何だ、他に何か書かれていないか、ときいても、いや建物に「ワワ」としか書かれていないと言う。

とりあえず探して、やっと会うことができて、ところで「ワワ」って何だったの、ときかれた彼が、あれだよ、と指さしたデパート。

見てみると「OI OI」と書かれてあったわけです(爆笑)。

 

 

(このジョークが理解できれば、君もフランス人だ! ボンジュ~ル!)

 

 

 

蛇足ついでといっては何ですが、フランス語の「r」は日本人にはちょっと難しい発音です。

フランス語の「r」は慣例的に「ラリルレロ」で表記するようになっているのですが、日本語の「ラリルレロ」とは全然違う音です。「うがい」をするときのように、のどの奥をゴロゴロさせるような独特の発音で、人によっては「ガギグゲゴ」のような音に聞こえるかもしれません。

 

ですから、「r」の音が入っている「histoire」や「croissant」や「foie gras」などのフランス語の単語は、フランス語を習ったことのない日本人には聞き取れないし、声に出してもほとんど通じないと思います。

 

 

 

フランス語が難しい、というのはよくいわれることですが、フランス語に挑戦してみると、思ってもみない「意外なメリット」がけっこうあります。

 

そのひとつは、「英語を深く理解できるようになる」というものです。

 

何度も述べてきましたが、英語は、フランス語から大きな影響を受けています。

フランス語を知れば、英語のことをより詳しく知ることができます。

 

 

 

さて、「ch」の続きを。

 

「ch」を「シュ」と発音するのはフランス語由来の語彙です。

 

 

chandelier「シャンデリィア」(シャンデリア)

champagne「シャンペイン」(シャンパン)

Chicago「カゴゥ」(シカゴ)

chic「ック」(上品な)

chivalry「ヴォリィ」(騎士道)

chef「シェフ」(料理長)

Chevrolet「シェヴォレ」(シボレー:自動車メーカー)

 

machine  「マーン」(機械装置)

cache「キャシュ」(隠し場所)

parachute 「パラシュート」(パラシュート)

moustache「マスタッシュ」(口ひげ)

 

 

「cache」(キャシュ:隠し場所)は、「cash」(キャシュ:現金)と発音は同じですが、綴りは違うので注意してください。

また、「ache」=「エイク」ですが、「cache」=「キャシュ」なので、これも気をつけましょう。

 

 

 

ちなみに、チョコレートは英語では「chocolate」ですが、フランス語では「chocolat」です。

語末が「t」になっていますが、フランス語は語末の「t」を読みません。

したがって、フランス語では、これを「ショコラ」といいます。

 

 

 

その他、まあ、「例外」のひとつですが、オランダ語由来の「ch」があります。

 

yacht「ヨット」(ヨット)

 

これは「ch」が無音になっています。

 

 

 (ivy 松村)

 

 

「H」の話②

「H」の起源は、古代ギリシアの文字にあります。

 

古代ギリシア語には「ヘータ」という文字がありました。「ヘータ」の大文字の字形は「H」と同じ形です。

これが、「エイチ」のルーツです。

 

この「Η」=「ヘータ」は、やがて「エータ」という名称で呼ばれるようになります。

古代ギリシア語において、[]の音の消失が起こったからです。

 

そのため、「Η」という文字からも[]の音が失われたわけです。

 

 

現代英語では、「H」という文字は「エイチ」と呼ばれます。

実は、これは奇妙なことです。

 

英語において、「H」という文字が担う基本的な「音素」は、[]=「ハヒフヘホ」の音だからです。

 

「エイチ」という呼称に、[]の音が含まれていないのです。

 

たとえば、ドイツ語では、「H」の文字は「ハー」と呼ばれます。

これは、ごく自然な「命名」だといえるでしょう。

「ハヒフヘホ」の音を担う文字の名称には、[]の音が組み込まれているわけです。

 

ラテン語でも「H」は「ハー」と呼ばれました。(ラテン語には当初[]の「音素」がありました。)

 

 

ラテン語から派生したイタリア語、スペイン語、フランス語などのロマンス諸語は、「H」を発音しないということを、前回の記事で紹介しました。

 

では、これらの言語は、「H」をどのように呼んでいるのでしょうか。

 

 

・イタリア語 …「アッカ」

・スペイン語 …「アチェ」

・フランス語 …「アシュ」

 

 

イタリア語は「H」の文字に「カ」→「カキクケコ」の音を代表させています。

スペイン語は「H」の文字に「チェ」→「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」の音を代表させています。

そして、フランス語は「H」の文字に「シュ」→「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」の音を代表させています。

 

これらは、実は、それぞれの言語の「ch」の発音です。

つまり、これらの言語にとって「H」は、「ch」を形成するための文字であるとみなされているわけです。

 

 

 

ということで、「ch」についてもう少し詳しくみていきましょう。

 

 

]の音を失った「Η」という文字には、新しい役割が与えられるようになります。

それは、「二重字」の一部になることです。

 

「二重字」というのは、「ひとつの文字」と同じような機能を持つ2文字列のことをいいます。

要するに、「セット」になった2つの文字に、「独自の発音」を付与するわけです。

 

「H」という文字の重要な働きのひとつは、「二重字」を構成するということです。

 

 

「ch」は、「c」という文字と「h」という文字が組み合わさった代表的な「二重字」です。

 

イタリア語、スペイン語、フランス語では、「H」という文字の名称に「ch」の音があてられています。

これらの言語にとって、「H」という文字の「第一義」は、「ch」を作り出すことなのです。

 

 

それにしても、それぞれの言語で、「ch」の発音がずいぶん違っていますね。

 

 

イタリア語では、「ch」は「カキクケコ」の音になります。

たとえば、イタリアの有名な童話の登場人物「ピノッオ」の綴りは「Pinocchio」になります。

 

スペイン語では、「ch」は「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」の音になります。

たとえば、キューバ革命に参画し、スペイン語圏で人気の高い歴史的人物のひとり、「チェ・ゲバラ」の綴りは「Che Guevara」になります。

 

フランス語では、「ch」は「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」の音になります。

たとえば、ピアノ曲で有名な作曲家の「ショパン」の綴りは「Chopin」になります。

 

フランス語では「in」の発音が「アン」になるので、「Chopin」は「ショパン」です。

ちなみに、「ルパン」は「Lupin」と書きますよ。

 

余計な話ですが、“Chopin”は、英語でも「ショパン」ですが、「チョピン」という人もいます。“Lupin”は、「ルピン」ですね。

 

 

…チョピン。…なんか、残念。

 

 

 

ドイツ語においても、「ch」は独自の発音を持っています。

 

ドイツ語には「ハヒフヘホ」が2種類あります。

ひとつは「H」で表される[]です。

もうひとつは、強く発音される「ハヒフヘホ」で、「カ」と「ハ」を強く同時に発音するような音です。

文字で説明するのはなかなか大変ですが、寒いときに、手に息を吹きかけるときに出すような「ハ~」という音で、のどの少し奥まった上のあたりを息でこするようにして出します。

 

ドイツ語には「ハヒフヘホ」が2種類あるので、これらを区別するために「ch」が用いられているわけです。

 

たとえば、ドイツの偉大な音楽家、「バッ」の綴りは「Bach」となります。

また、ドイツ起源の人気のあるお菓子に「バウムクーン」がありますが、その綴りは「Baumkuchen」になります。

 

 

 

そして、英語の「H」ですが、「エイチ」と読みます。

したがって、その名称には、やはり「ch」という二重字が念頭に置かれているわけです。

英語における「ch」の発音は、「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」です。

 

 

さて、ここでひとつの疑問に突き当たります。

 

イタリア語やスペイン語、フランス語などとは異なり、英語には、[]の音が存在し、「H」という文字は、その発音の表記を担っているわけです。

そうすると、この文字の名称は、「ハー」とか「ヘー」であるべきです。

 

 

なぜ、「H」は「エイチ」なのでしょうか。

 

 

そのヒントは、フランス語にあります。

 

英語は、フランス語の影響を強く受けています。

「フランス人」がイギリスを支配していた時代があるためです。

「フランス人」によるイギリスの「征服」を、歴史の用語で「ノルマン・コンクエスト」といいます。

 

デンマークやノルウェー、スウェーデンなどの北欧には、かつて「ノルマン人」と呼ばれるゲルマン人の一派が住んでいました。「ノルマン」というのは「北方の人」という意味です。

フランス北西部に、「ノルマンディー」という場所がありますが、その地名は「ノルマン人」にちなんだものです。

 

「ノルマン人」というのは、つまりは「バイキング」のことです。

彼らは、巧みに船を操り、ヨーロッパ各地の沿岸に勢力を伸ばしていき、やがてその一部がフランスに土着します。その地が、「ノルマンディー」と呼ばれるようになったわけです。

 

フランスに根を下ろした「ノルマン人」は、次第に「フランス化」し、フランス語を話すようになります。

 

そうはいっても「バイキング」の末裔です。

11世紀後半、彼らは対岸のイギリスに侵攻し、イギリスを支配下におさめます。

こうして、イギリスは「ノルマン人」に征服されてしまうわけですが、それは、もはや「フランス人」によるイギリス支配だったわけです。

 

「ノルマン・コンクエスト」を契機として、イギリスには大量のフランス語の語彙が流入しました。

 

英語に、フランス語由来の語彙がたくさんあるのも、また、フランス語(風)の発音を持った語彙が存在するのも、「ノルマン・コンクエスト」の影響なのです。

 

 

 

「H」に話を戻しましょう。

 

フランス語では、「H」を「アシュ」と発音します。

その綴りは“ache”です。フランス語では「ch」は「シュ」の発音になります。

 

イギリスにおいても、「フランス人」に支配されていた時代には「H」は「アシュ」と発音されていました。

 

しかし、やがてイギリスでは「ch」は「チ」と発音されるようになります。

 

イギリス人が、国内からフランスの勢力を追い出し、英語が「国民の言語」として形成されていくなかで、いくつかの要因が重なって、英語の発音に変化が起こりました。

 

 

となれば、“ache”の読みは(スペイン語と同じように)「アチェ」になるはずです。

 

ところがまた、中世から近世にかけて、英語の発音に変化が生じました。そのため、「アチェ」のような発音は、維持されなかったのです。

 

英語独特のユニークな「発音体系」が、15世紀から17世紀にかけて形作られました。

そのうちのひとつは、語末が「子音+e」になるときに、「e」を発音せず、その直前の母音を二重母音で発音するというものです。

 

 

たとえば:

 

・「ace」→「エイス」(トランプの1)

・「age」→「エイジ」(年齢)

・「ape」→「エイプ」(猿)

・「ate」→「エイト」(eatの過去形)

 

 

したがって、“ache”は「エイチ」と発音されなければなりません。

 

フランス語において「H」の文字は“ache”という名称です。

フランス語では、その綴りを「アシュ」と発音しますが、英語では「エイチ」と発音されてしかるべきなのです。

 

 

 

…しかしながら、“ache”は「エイチ」とは読みません。

 

よく知られているように、現代の英語では、“ache”を「エイク」と読みます。

 

 

「ache」という綴りの、別の単語が「現れた」のです。

18世紀ごろに、「痛み/痛い」という意味を持つ「エイク」という発音の語彙が、「ake」ではなく、「ache」という綴りに整理されたのです。

 

 

そのため「ache」=「エイク」となってしまったわけですが、「H」の呼称は、依然として「エイチ」です。

 

そこで、「エイチ」という発音を表記する別の綴りが求められたのです。

 

 

それで「エイチ」は「aitch」となったわけです。

 

 

ちなみに、現代の英語で「アシュ」といえば、「ash」(灰)のことですね。(少し発音が違いますが。)

 

 

 (ivy 松村)

 

「H」の話①

アルファベットの8番目の文字「H」(aitch)「エイチ」についてです。

一応、念のため、いっておきますが、「Hな話」ではありません。

 

 

まったくどうでもいい話ですが、私は、授業の雑談の際に、けっこう「雑なアンケート」を取ることがあって、たとえば、「好きな地図記号は?」とか、「好きな部首は?」とか、アホみたいなことを生徒に聞いたりすることがあります。

私の好きな地図記号は「発電所」で、好きな部首は「がんだれ」なのですが、そんな私の好きなアルファベットの文字は、「H」なのです。

しかし、その回答は、何か、誤解されそうで、生徒にもアルファベットのアンケートをしづらいというのが、最近の悩みです。

 

 

 

そんなどうでもいい話はさておいて、「H」についてです。

「H」はかなり特異な文字です。

 

「H」=「h」についてみていきましょう。

 

 

まず、「h」の基本の「役割」ですが、それは、「ハヒフヘホ」の「音素」→[]を表わすということです。

 

 

・hand「ハンド」, house「ハウス」,hundred「ハンドレド」

・heat「ヒート」,hill「ヒル」, hit「ヒット」

・hair「ヘア」 heavy「ヘヴィ」,hello「ヘロウ」,

・home「ホーム」,horse「ホース」,hospital「ホスピタル」

 

ただし、「ヒュー」になる場合があります。

 

・human「ヒューマン」,humor「ヒューマァ」,huge「ヒュージ」,humid「ヒューミッド」

 

 

「ハヒフヘホ」の音を表示するのは、最も一般的な「h」の使われ方ですね。

 

 

 

「h」は、「黙字」となることもあります。

 

発音をしない「h」ですね。

 

 

・honest「オネスト」

・honor「オナー」

・hour「アワー」

 

 

これらは、フランス語に由来する単語です。

 

英語は、歴史的にフランス語の影響を強く受けています。イギリスがフランスの支配を受けた時代に、多くのフランス語が英語に流入したのです。

 

 

フランス語は、「h」を発音しません。

 

たとえば、“hotel”はフランス語では「オテル」です。

 

“henry”という名前は、イギリスでもフランスでも人気の名前ですが、英語では「ヘンリー」、フランス語では「アンリ」になります。

 

日野は「イノ」、八王子は「アシオジ」になります(chiの発音が「シ」になるため)。

「母の日」は「アアノイ」になりますね。

 

 

昔、フランスから中国経由で日本に帰ろうとして、旅行会社の窓口でチケットの手配を頼んだときに、受付のお姉さんが、「サンガイ、サンガイ…」とずっと言っていて、「サンガイ」というのはどこだっけ?と、しばらく考えていたのですが思い当たらなくて、「サンガイってどこですか?」ときいたら、「え、サンガイも知らないの?」みたいなリアクションをされて、「ここよ!」って示されたところを見てみると、“Shanghai”でした。

「シャンハイ」は、フランス語では「サンガイ」ですね。

 

 

 

それにしても、フランス語はなぜ、綴りに「h」が用いられているのに、発音されないのでしょうか。

 

 

その「原因」は、古代のギリシアで起こった、「h」の発音の消失にさかのぼることができます。

 

 

ギリシャ文字(ギリシア文字)は、私たちの知っている西ヨーロッパで使われている「アルファベット」(ローマ字)とは違っているので、ちょっとわかりづらいのですが、たとえば、古代ギリシア語で「歴史」を意味する単語を「ἱστορία」と書きます。

 

これを「ローマ字」で書き表すと「historia」になります。

 

これは「ヒストリア」と読めます。

しかし、古代ギリシアで「h」の音がなくなってしまったために、この単語は「イストリア」と発音されるようになります。

 

こうした「慣例」が後の時代に受け継がれることになるのです。

 

 

ヨーロッパ文明の礎となった古代ギリシア文明、その繁栄を担ったギリシア語の語彙は、ローマ帝国に継承され、やがてヨーロッパに伝播していくことになります。

 

ローマ帝国で使用されていた公用語はラテン語です。

ローマの人々は、古代ギリシア語をラテン語に取り入れる際に、「h」を発音しないという「慣例」も受容したのです。

 

 

フランス語は、ラテン語から派生した言語です。

したがって、「h」を発音しないという古代の「慣例」を受け継いでいるわけです。

 

フランス語では「歴史」のことを「histoire」と書き、「イストワール」と読みます。

「hi」の発音が「イ」となっていますね。

 

 

 

ちなみに、フランス語だけでなく、イタリア語やスペイン語でも「h」は発音されません。

 

これらの言語は、古代ローマ帝国で使用されていたラテン語を共通の祖先とした同系統の言語です。古代のローマ帝国に起源を持つこれらの言語をまとめて「ロマンス語」といいます。

(念のため、一応いっておきますが、「ロマンス」というのは、うっとりするような情感豊かな物語のこと、ではなくて、「ローマの」という意味です。)

 

 

一方、英語の「歴史」は、当然「history」です。これは「ヒストリー」と読みますから、「h」が発音されています。

 

英語は、「ロマンス語」の系統ではなく、「ゲルマン語」の系統です。

 

同じく「ゲルマン語」の系統のドイツ語には「歴史」を意味する単語が2つありますが、そのうちのひとつは「Historie」です。これも「ヒストリー」と発音します。ドイツ語にも「h」の発音があるわけです。

 

 

ざっくりとまとめると、「ロマンス語」は「h」を発音せず、「ゲルマン語」は「h」を発音します。

 

「ゲルマン語」の系統である英語やドイツ語は、古代ギリシア語やラテン語に由来する語彙に、「h」の発音を与えて受け入れたわけです。

 

英語は元来「h」の発音を有しています。

しかし、11世紀以降、イギリスに「ロマンス語」のひとつである「フランス語」が流入します。「h」の音がない語彙は、その際にもたらされたものです。

 

「フランス経由」でイギリスにもたらされた語彙のうち、フランス語の「語感」が強かった語は、フランスの発音を維持し続け、今日までその発音が踏襲されることになったわけです。

 

 

 

ところで、これはまったくの余談ですが、私は中学のころ、ある女性の英語教師に「history」の語源は「his story」だと教えられました。

要するに、歴史というのは、「“彼の”物語」なのである、と。

その教師は、これは、「歴史」というものが「男」によって作られ、独占されてきたのだということの表れなのであると力説しました。

 

私はずいぶん長らくその話を信じていましたが、あるときにそれは成り立たないということに気づきました。

 

ある時期に、ほんの3、4か月ですが、フランス語を学習したことがあって、そのときに「歴史」を意味する「histoire」という言葉に出会ったのです。

明らかにその語は英語の「history」と同根の単語でした。

 

そのとき私にフランス語を教えてくれていたのはフランス人の教師でしたが、そのことについてちょっと質問してみたのです。

すると、その先生は、ああ、それはいい質問ですね、といって、それら2つの語はともに古代ギリシア語に由来するもので、「his story」という句から「history 」という言葉が作られたというのはただの俗説だということをあっさりと説明してくれました。

 

まあ、要するにただの「ダジャレ」だったわけです。

 

 

しかし、この俗説は、非常に根強く世間に浸透しているようです。

私の身内にオーストラリアに留学していたものがいるのですが、オーストラリアの英語教師が同じことを言っていたそうです。英語のネイティブでさえ、鵜呑みにしているわけです。

 

 

今でも、この俗説をせっせと説いている教師が、存在するのでしょう。

 

この世界が「男性中心」に形作られ、女性が様々な面で抑圧されてきたというのは、「真実」だと思います。当然、世界はよりよく変化するべきだと思いますし、「そのため」に「啓蒙」は必要でしょう。

 

しかし、その言説が「ダジャレ」によるものでは、台無しだと感じます。

 

 

 

「h」の話をもう少し。

 

先に、古代ギリシアで「h」を発音しなくなったということを書きました。

しかし、これは特殊な出来事というわけではなく、実は[]はそもそも無音化されやすい音なのです。

 

 

たとえば、日本には「高橋(タカハシ)」という苗字の人や「上原(ウエハラ)」という苗字の人がいますが、よく聞いてみると彼らは「タカーシ」とか「ウエァラ」と呼ばれていることがあります。

 

]の音は、けっこう「弱い音」なので、消えやすいのです。

 

 

「アルコール」は、オランダ語を語源とする外来語で、「alcohol」と綴ります。

この綴りは英語と同一です。

オランダ語も英語も「アルコホール」と発音します。日本人も昔は「アルコホル」と発音していましたが、今は「アルコール」と呼んでいます。

 

 

現代の英語話者でも、ロンドンの下町やアメリカの方言では、[]を発音しない話し方がみられます。

 

 

 

その他、「gh」や「th」から[]の「要素」だけが消失し、「g」や「t」の発音になった語彙もあります。

 

・ghost「ゴウスト」(幽霊)

・Ghana「ガーナ」(国名)

・Thailand「タイランド」(国名:タイ)

・Thames「テムズ」(ロンドンを流れるテムズ川)

・thyme「タイム」(薬草、香辛料)

 

 

 

あと「exhibition」は「エグザビション(展示会)」と読みますが、これも[]の音が消えているとみることができますね。

 

 

 

(ivy 松村)