「H」を用いた「二重字」は、意外と多くあります。
たとえば、「ch」「sh」「ph」「th」「gh」「wh」「rh」などです。
この中で、「ch」は少し厄介です。「ch」には、複数の発音があります。
スペイン語、イタリア語、フランス語のそれぞれの言語の「ch」の発音を確認してみましょう。
・スペイン語の「ch」…「チ」→「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」
・イタリア語の「ch」…「ク」→「カキクケコ」
・フランス語は「ch」…「シュ」→「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」
英語の「ch」は、いずれの発音も有しています。
つまり、英語において「ch」は、「チ」と読む可能性もあれば、「ク」と読む可能性もあります。
それだけでなく「シュ」と読む可能性もあるわけです。
「ch」の綴りが出てきたときは、発音記号を確認するようにしましょう。
・「チ」の発音記号→[tʃ]
・「ク」の発音記号→[k]
・「シュ」の発音記号→[ʃ]
3つの発音の中で、英語の「ch」の「基本」となるのは「チ」です。
China「チャイナ」(中国)
child「チャイルド」(子供)
champion「チャンピオン」(王者)
chance「チャンス」(機会)
charity「チャラティ」(チャリティ)
church「チャーチ」(教会)
cheer「チア」(応援)
chicken「チキン」(鶏肉)
cheese「チーズ」(チーズ)
cheap「チープ」(安い)
choose「チューズ」(選ぶ)
chair「チェア」(椅子)
change「チェンジ」(変わる)
chocolate「チョコレト」(チョコレート)
chopsticks「チョプスティクス」(箸)
…
枚挙にいとまがありません。
「ch」の付く英語の基本語彙は、一般的には「チ」で読まれます。
「ch」を「ク」と発音するのは、古代ギリシア語、ラテン語(あるいはイタリア語)に由来する語彙です。
chaos「カオス」(混沌)
chameleon「カメレオン」(カメレオン)
charisma「カリスマ」(人を心酔させる魅力)
character「キャラクター」(特徴)
Christ「クライスト」(キリスト)
Christmas「クリスマス」(クリスマス)
chemistry「ケミストリー」(化学)
chemist「ケミスト」(薬屋)
chronicle「クロニクル」(年代記)
cholera「コレラ」(コレラ)
chorus「コーラス」(合唱)
なじみのある単語で「ch」=「ク」の発音をするものもけっこうありますよ。
anchor「アンカー」(最終走者)
school「スクール」(学校)
technic「テクニック」(技術)
technology「テクノロジー」(科学技術)
orchestra「オーケストラ」(管弦楽団)
echo「エコー」(反響)
また、「ch」=「ク」になる単語は、古代ギリシア語、ラテン語に由来する語彙なので、学術用語や専門用語、あるいは抽象的な概念や造語などによく見られます。
anachronism「アナクロニズム」(時代遅れの)
archive「アーカイヴ」(記録文書)
scholarship「スカラーシップ」(奨学金)
archeology「アーキオロジー」(考古学)
architecture「アーキテクチャー」(建築)
anarchy「アナーキー」(混乱)
scheme「スキーム」(計画、体系)
epoch「エポック」(新時代)
synchronize「シンクロナイズ」(同時性を持つ)
stomach「スタマック」(胃)
monochrome「モノクローム」(白黒)
psychology「サイコロジー」(心理学)
mitochondria「ミトコンドリア」(ミトコンドリア)
「archive」(アーカイヴ:記録文書)は「achieve」(アチーヴ:達成する)と混同しそうになってまぎらわしいので、気をつけてください。
他にも、
ache「エイク」(痛み)
という単語がありましたが、これは、ちょっと特殊です。
この語は古くからある英語の語彙であるにもかかわらず、その由来が古代ギリシア語であると「勘違い」されてしまったために、「エイク」の綴りに「ch」が当てられてしまったのだそうです。
また、
choir「クワイアー」(聖歌隊)
という単語がありますが、この単語の発音、めっちゃ注意してください。
「oi」を「ワ(イ)」と発音します。「oi」を「ワ」と読むのは、フランス語のルールです。
つまり、この語はフランス語由来なのです。
ということは、この語は、古くはおそらく「ショワー」と発音されていたはずなんですよね。
フランス語では「ch」は「シュ」になるからです。
しかし、この語は「chorus」(コーラス:合唱)などと同じ語源で、古代ギリシア語由来です。そのため、「ch」が「ク」に「復元」されたのだと思います。
しかし、「oi」は「フランス語の発音」のまま維持されたので、難解な発音の単語になってしまったのでしょう。
「oi」=「ワ」のフランス語の例は、他にも、
croissant「クロワソン」)(クロワッサン)
foie gras「フォワグラ」(フォアグラ)
などがあります。
あとは、フランス語で「歴史」を意味する「histoire」という語も、「イストワール」と発音しますね。
まったくどうでもいい話ですが、日本に住んでいるフランス人の「必殺ジョーク」があって、スマホなどがまだ普及していないころ、あるフランス人が道に迷って、しかたなく電話をかけてきたので、周りに何か目立つ建物がないかきいてみたところ、「ワワ」という建物がある、と。
よくわからないので、「ワワ」って何だ、他に何か書かれていないか、ときいても、いや建物に「ワワ」としか書かれていないと言う。
とりあえず探して、やっと会うことができて、ところで「ワワ」って何だったの、ときかれた彼が、あれだよ、と指さしたデパート。
見てみると「OI OI」と書かれてあったわけです(爆笑)。
(このジョークが理解できれば、君もフランス人だ! ボンジュ~ル!)
蛇足ついでといっては何ですが、フランス語の「r」は日本人にはちょっと難しい発音です。
フランス語の「r」は慣例的に「ラリルレロ」で表記するようになっているのですが、日本語の「ラリルレロ」とは全然違う音です。「うがい」をするときのように、のどの奥をゴロゴロさせるような独特の発音で、人によっては「ガギグゲゴ」のような音に聞こえるかもしれません。
ですから、「r」の音が入っている「histoire」や「croissant」や「foie gras」などのフランス語の単語は、フランス語を習ったことのない日本人には聞き取れないし、声に出してもほとんど通じないと思います。
フランス語が難しい、というのはよくいわれることですが、フランス語に挑戦してみると、思ってもみない「意外なメリット」がけっこうあります。
そのひとつは、「英語を深く理解できるようになる」というものです。
何度も述べてきましたが、英語は、フランス語から大きな影響を受けています。
フランス語を知れば、英語のことをより詳しく知ることができます。
さて、「ch」の続きを。
「ch」を「シュ」と発音するのはフランス語由来の語彙です。
chandelier「シャンデリィア」(シャンデリア)
champagne「シャンペイン」(シャンパン)
Chicago「シカゴゥ」(シカゴ)
chic「シック」(上品な)
chivalry「シヴォリィ」(騎士道)
chef「シェフ」(料理長)
Chevrolet「シェヴォレ」(シボレー:自動車メーカー)
machine 「マシーン」(機械装置)
cache「キャシュ」(隠し場所)
parachute 「パラシュート」(パラシュート)
moustache「マスタッシュ」(口ひげ)
「cache」(キャシュ:隠し場所)は、「cash」(キャシュ:現金)と発音は同じですが、綴りは違うので注意してください。
また、「ache」=「エイク」ですが、「cache」=「キャシュ」なので、これも気をつけましょう。
ちなみに、チョコレートは英語では「chocolate」ですが、フランス語では「chocolat」です。
語末が「t」になっていますが、フランス語は語末の「t」を読みません。
したがって、フランス語では、これを「ショコラ」といいます。
その他、まあ、「例外」のひとつですが、オランダ語由来の「ch」があります。
yacht「ヨット」(ヨット)
これは「ch」が無音になっています。
(ivy 松村)