都立中受検の私立併願について②

2000年代の初頭から中盤にかけて、景気が回復したことや、世間の「ゆとり教育」に対する不安と危機感によって、私立中受験は史上最大のブームを迎えました。

追い風に乗って、各私立中学は、募集枠の拡大や「午後受験」や受験日の増設などを行いました。

しかし、そのさなかに起こった「リーマンショック」が、受験需要の急速な縮小をもたらしました。

以降、私立中学の受験者数は大きく減少しています。

 

私立中受験ブームの失速に呼応するように、都立(公立)中受検がブームを迎えました。

 

「都立中受検コース」が私立の難関中学に合格者を送り出していることは、「都立中受検」が、いかに「優秀」な生徒を多く集めているという証左でもあるといえるでしょう。

同時に、「私立中受験」の「引力」が弱まり、中堅校の「ボーダー」の下降も進行しています。

 

 

「都立中受検コース」を設置している学習塾が、私立中受験に対応する講座などを開講するようになっています。2月1日、2月2日の私立中受検で、ある程度の上位校を狙おうという併願戦略です。

 

 

私立中受験の「流れ」と、うまくはまり、それなりの実績を上げているところもあるようです。「都立中受検コース」から、桐朋、穎明館、帝大中などに合格する生徒もいるそうです。

 

 

 

一方で、私立中志願者が、都立中を併願するような受験パターンも徐々に定着してきました。

 

当初から、小石川や武蔵等の上位都立中の「適性検査」問題は、私立の上位校との親和性が高いことが指摘されていました。

理系の問題はいうまでもなく、「作文」であっても、重厚な記述問題を出す私立中の志望者であれば、それほどの負荷を感じることなく適応できる受験生もいます。

 

実際に、2月1日合格をつかんだ後に、ある種の「余韻」を求めて都立中を受検し、いとも軽々と合格をする生徒がいるのだそうです。全く都立中の勉強をせずに合格することもあると聞いています。

 

 

今後も、都立中の適性検査の「共通化」によって、入試問題としての内容がさらに「私立より」に近づくのではないかと考えられています。

都立中学の先生方も、内心では、私立中受験型の訓練を積んできた生徒を多く集めたいと思っていらっしゃるでしょう。

 

少し大胆な考えかもしれませんが、適性検査は少しずつ「チューニング」されていくのではないかと思っています。

 

 

立地や大学進学実績等をみて、都立中との併願を考える私立志望のご家庭も多くなってくるようです。特に小石川中は、すでに私立上位校と肩を並べる存在になりつつあります。

 

 

 

こうして、「都立中受検」から「私立中受験」への併願の流れとともに、「私立中受験」サイドからも、都立受検との併願が浸透しつつあります。

これには、好ましい部分と、そうでない部分があります。

 

都立中受検の独自性が失われることで、「中学受験」の一体化が進行します。

そうなれば、学習内容が接近し、併願戦略がよりいっそう活性化します。

それによって、受験生の学力と、その進学先の「最適化」が進むでしょう。

都立第一志望の生徒で、「不相応」な私立中学に進学する生徒を減らすことにつながります。

 

 

一方で、都立中学が、国立中学のように「中学受験」全体に組み込まれることで、「中学受験」が再び画一化します。そうなれば、「中学受験」を志す小学生とそうでない小学生との間で学力の二極化が強まるでしょう。

「都立中受検」が生み出した、豊かな「中間層」が失われてしまうかもしれません。

 

ともあれ、都立中受検の方向性に、今後も注目していきたいと思います。

 

 

ところで、話は変わるのですが、先週発売の『AERA』で中学受験の特集が組まれていました。中を覗いてみると、都立中と私立中の併願についての記事が載っていました。

これは全くの偶然でびっくりしたのですが、いかにもその記事に触発されてブログを書き始めたかのように思われるのもちょっとくやしいので、釈明です。

ブログを書いていると、たまに、冗談のような「シンクロ」があります。

 

都立中と私立中の併願について書こうと思った動機は別のところにあります。「正しい情報」を発信する必要性が生じたからです。

 

 

さらに、私立中に進学することの意義や、業界の思惑や事情などについて書き継ごうと思っていたのですが、また、後日に書きたいと思います。

ちょっと誤解を招きかねない内容になりそうなので、うまくまとめるのにかなり時間がかかりそうです。

 

(ivy 松村)

都立中受検の私立併願について①

中学受験における都立中の存在感が年々大きくなっていることを感じます。

国私立か、都立かという初期の二極状態が崩れ、私立中と都立中の併願戦略が活発化、一般化しつつあります。

 

昨年度、「適性検査型入試」を行った首都圏の私立中学は40校以上にのぼるそうです。これらの私立は、「適性検査型入試」を実施することで、都立中の志願者を自校の受験者に取り込もうとしているのです。

 

都立中志願者にとっても、私立中の併願受験は一定のメリットがあると考えられています。

私立中の「適性検査型入試」は2月3日よりも前に集中していますが、これは2月3日に実施される都立中入試の「予行演習」「調整」としての位置づけを、私立中学側が受け入れているためです。

 

私立中学側には2つのメリットが期待できそうです。

ひとつは受験料収入です。私立学校は、授業料、寄付、受験料が収入の柱となります。

 

もうひとつは入学する生徒の確保とレベルアップです。

都立中受検の動機として公立中学への拒否感を強く持っている生徒・保護者の方が多くいます。都立中入試は非常に「間口」が狭いので、優秀な生徒であっても厳しい結果となることがあります。そのなかで、公立中学に行くよりは・・・という選択があり得るのです。いくつかの中学では、「適性検査型入試」の合格者の多くに「特待生」や「奨学生」としての「権利」を出しています。

私立中学側は、6年後の大学入試での「活躍」を期待しているのです。

 

「授業料」が「免除」されるのであれば、公立中学よりも魅力的な進路に思えるので、最初は行くつもりもなかった「併願私立中学」に入学する生徒・保護者の方も意外なほど多くいます。

 

個人的な実感としては、その中の何人かは、高校受験で、偏差値でいえば約20ポイント近くレベルが上の、最上位校を狙えるだけの力を持っているのに、かなり不当な「譲歩」をしてしまっているように思います。

 

これには、塾側が併願を勧めるという状況があるのかもしれません。

私立中学が、学習塾に、「どうぞよろしく」とあいさつをされているのかもしれません。

 

 

 

いずれにしても、いまだに「無理を承知」で都立中を受検する層が多いと考えるのは、ちょっと現実離れしています。ましてや、私立中学との併願受験ができないということはありえません。

 

少し情報を集めればわかることですが、都立中の倍率は下がっています。

一方で、ほとんどの受検生は塾に通って受検勉強を行うようになっています。

そのために、ほとんどの受検生は、私立中受験と相違ないほどの塾費用と、通塾日数を費やしています。

 

 

 

塾、都立中学、私立中学、生徒・保護者、それぞれの思惑を反映して、都立中受検は進化しています。

最前線のトレンドは、私立中受験との「ボーダレス化」であるといえます。

ただし、これは大きな皮肉をはらんでいます。

当初、「都立中受検」は私立中受験との「差別化」をブランド化の基礎としていたのですから。

 

 

めぐりめぐって、「都立中受検」は、私立中との併願戦略を模索するようになりました。

 

これは、「受験」という事象を、形を変えた「投資」であると考えると理解しやすくなります。

 

運を天にまかせて、自分の持つ資金のすべてを費やし、たったひとつの銘柄のみを購入する投資家は極めてまれです。多くの投資家は、「リスクヘッジ」を考えます。つまり、一般的には、投資家は、集中的な損失を回避するために、投資を分散して行うのです。

 

都立中をたった一校のみを受検することは、「リスク」の高いチャレンジになります。

しかも、倍率が高く、問題傾向も不安定な入試ですので、極めて「ギャンブル」に近似する挑戦となります。

 

「私立中併願」は、「リスクヘッジ」として機能します。

 

 

また、一方で、「キャンブル」的傾向ゆえに、都立中受検が「過熱」します。その需要に反応して、塾産業が様々な受検対策の「サービス」を提供しています。

ほんの五年前には、「都立中受検コース」の毎月の授業料は、週1回通塾で月1万円前後でした。

しかし今は、塾によっては、週に3、4日通塾し、3万円以上の授業料のところもあるようです。さらに「オプション講座」を含めると、月に5万円近くになりそうです。

 

そこまで「投資」して、経済的であるという理由で都立中を目指すのは、ちょっと本末転倒なのではないかと感じてしまいます。

さらにもし、私立中への進学も選択肢としてありえるのであれば、なおさら・・・。

 

 

経済心理学の用語で「サンクコスト・バイアス」というものがあります。

 

すでに投資した費用が回収できなくなっているのに「損切り」ができずに、不利な状態を引きずってしまう心理のことをいいます。

わかりやすくいうと、「これだけお金を使ったのだから、今更やめられない、やめてしまうと、今までの費用が無駄になってしまう」という思考のことです。

 

多分に、受験生の保護者の方はこの心理に陥りやすいので注意が必要です。

 

 

 

ivyの都立中受検コースは、かなり明解なコンセプトとなっています。

都立中受検は、高校受験の「準備」という位置づけです。

 

詳しくは過去にブログに書きました。興味のある方はご覧ください。

 

都立中受検の意義

 

(ivy 松村)

中高一貫校増加の影響(高校受験考察①)

最近の高校入試の傾向を、中学受験との関連で考えてみたいと思います。

 

中学受験には、二つの方向性があります。

 

ひとつは、私立の大学附属校に進み、大学までのルートを確保しようというものです。

もうひとつは、一貫校に進み、大学受験に備えようというものです。

 

前者は、私立の名門大学への「入学の権利」を早期に獲得することで、受験に煩わされることのない中学・高校生活を送ることができます。

後者は、主に国立の名門大学の入試を突破するための学力を醸成するのに、理想的な環境を手に入れることができます。

 

中学受験は、ある意味で、大学入学を見据えての、教育投資であると捉えることもできます。

また、あえて補足すれば、階層文化を再生産する装置として機能しています。

 

 

いずれにしても、「公立の中学を避けよう」とする思惑が根底にあります。

 

 

 

最近の10年間の受験業界の最も大きな変化は、都立高校の復権であるといえますが、それと並行するかのように、私立高校の「一貫校化」が起こっています。

 

早大学院、中附など、中学部や中学校を新設する大学附属高が増えました。

また、八王子高校のような大学附属ではない高校で、中学校を設置する動きがみられるようになりました。

 

一方、穎明館、吉祥女子、海城などの進学校で、高校の募集が停止になりました。

 

最近では、高校の募集を再開し始めた私立もありますが、トレンドとしては、6年制の中高一貫校志向が広がっていると捉えることができるでしょう。

 

 

私立高校は、一貫校化することで、経済力、学力に恵まれた生徒を安定的に確保しようという戦略を持っています。

また、進学校では、6年という中等教育課程を効率的に指導し、大学合格実績を上げることで、少子化時代の生き残りを図ろうとしています。

 

 

こうした近年の「一貫校」の広がりは、裏を返せば、高校受験の「枠」を縮小させていることになります。

 

中学校を併設した学校では高校の募集人数を減らさなければなりません。各学校で収容人数が決められてあるので、単純計算では、中学から入学した生徒の数だけ、高校の募集「枠」が減らされることになります。

そして、当然、高校の募集を停止した学校は「高校入試」を行いません。募集人数はゼロになります。

 

 

私立高校は都立高校と競合する立場です。優秀な生徒の「取り合い」をしなければならないという宿命があります。

しかし、「高校受験」というフィールドで争うのは分が悪いという判断があったのでしょう。

あるいは、「青田買い」のほうが有利で効果が高い、という考えがあったのかもしれません。

 

そのために、「中学受験」という舞台に「進出」あるいは「高校受験」から「撤退」したのだとみることができます。

 

 

さらに、都立中高一貫校が開校しました。

多摩地区では、南多摩、立川国際、三鷹、都立武蔵など、伝統校や人気校が「中学受験」に参入することになりました。

 

そのことが意味するのは、都立中の誕生によって、高校受験で入学する「枠」が減らされたということです。

 

 

このように、近年、私立、都立の、進学実績が堅調な高校が「一貫校化」するという現象が増加しました。それによって、受験生の進学ルートが途絶えたり、せばめられたりすることが起きてしまったのです。

そのため、上位高への志望者が飽和しています。

 

また、近年では、国公立大学志願者が増えていますし、中受からのルートが「開拓」されたので、私立附属高受験もかつてほど過熱した状況ではなくなりました。

 

ですので、競争は、「高校から入学できる進学校」に集中します。

 

 

 

端的に、都立の上位進学校――進学指導重点校――は高校から入学する進学先として理想的です。そのために、人気が高まっています。

 

 

都立高校の復権に同調するかのように、一部の私立高校が「高校受験」から後退する動きを示しました。それによって、難関大学への進学を希望する公立中学生を収容する私立高校が減少してしまったのです。

 

そして、その受け皿となった都立高校の存在感がさらに強まり、都立高校の求心力がいっそう高まることになったのです。

 

したがって、近年の高校受験は「都立志望」の色彩が、きわめて色濃くなっているのです。

 

(ivy 松村)